三体3部作(三体、黒暗森林、死神永生)は、近年の読書で一番面白いと思った作品でした。
第1部『三体』は今振り返ると前振りでしかないのに、最初から異次元の面白さですぐにハマりました。
第2部『黒暗森林』はいよいよ地球文明vs三体文明の対決が本格化して、さらに面白くなって、結末も綺麗で、もうこれ以上はないのでは?と思うくらい完璧だったと思います。
第3部『死神永生』ではさらなる高みが待っていて、ピリオドの向こう側にぶっ飛ばされました。
第1部『三体』の時点でロケットスタートを切ったかと思いきや、第2部、第3部でもさらに桁違いのロケットが待っていて、もうこの衝撃を表現できる言葉が思いつかないです。
ただ発想やスケールがぶっ飛んでいるだけじゃなく、作品に込められた想いにも共感できて、衝撃と感動が両立しているところが本当に良かった。個人的にはSFの枠を超えて神話に分類したいです(後述)。
三体シリーズを読了した今、作者の劉慈欣さんがエッセイで書いた、次の言葉の意味がよくわかるような気がします。
わたしが〈三体〉であらゆる可能性の中から最悪の宇宙を書いたのは、われわれが最良の地球を求めて努力できると願うからである。
三体シリーズを読了している人とは感動や感想を共有できたら、これから読む人にとってはこの記事が読むきっかけになれれば、うれしいです。
三体シリーズとは?
中国のSF作家 劉慈欣さんによる小説
三体は中国のSF作家劉慈欣さんによる全3部作(『三体』『黒暗森林』『死神永生』)のシリーズ小説です。
本国中国では「地球往事3部作」とも呼ばれていて、中国語で「往事」とは、過ぎ去った過去のこと。
作品を一言に要約すると「宇宙人襲来もの」で、「読者の想像を遥かに超えてくるぶっ飛んだ発想」「時間も空間も宇宙スケールで展開する壮大さ」「詩的な文体・表現による美しさ」などが特徴的な作品だと思います。
中国では2008年~2010年にかけて出版され、英語版は2014年~2016年、日本語版は2019年~2021年にかけて出版されました。
中国発世界的ベストセラー(ヒューゴー賞・Netfixでのドラマ化も)
三体シリーズは中国発の世界的ベストセラーSF小説として世界に衝撃を与えました。
2022年8月時点で、約20ヶ国語に翻訳され、世界で約3000万部の売り上げ。中国および世界の数々のSF賞に多数ノミネート、受賞し、その中には世界最高のSF賞であるヒューゴー賞をアジア人として初めて受賞するという快挙も含まれています。
あのNetflixも黙っておらずドラマ化も決定。三体シリーズの壮大な世界観をどう映像化してくれるのか、2024年1月の配信が今から楽しみです!
マーク・ザッカーバーグさんやバラック・オバマさんなども絶賛
Meta(元Facebook)のCEOマーク・ザッカーバーグさんや、元アメリカ大統領バラック・オバマさんなども三体シリーズのファンであることを公言しており、そのことが世界的大ヒットの後押しになったと言われています。
特にオバマさんは、三体第3部(死神永生 Death’s End)の発売が待ちきれず、作者の劉慈欣さんにメールをするもスパムメールと思われて無視され、最終的には大統領の権力を使って出版前の原稿を入手してまで読んだようです(フェイクニュースだったら取り下げます)。
三体シリーズ全体の感想
私は読書は時空を超えれる旅だと思っていて、それゆえに読書が好きなのですが、この三体シリーズはまさにそんな作品でした。
20世紀の中国に始まり、時間は約2000万年後、空間は太陽系(直径数光年)の286光年先の惑星、さらには精神と時の部屋的なミニ宇宙で100億年経過して宇宙の終わりまで。リアルでは絶対にできない旅。読書の醍醐味を味わえる作品だったと思います。
また、この宇宙の時空が壮大すぎて、人間はちっぽけな存在だなぁとも思いました。各部の主人公クラスのキャラ(葉文潔、汪淼、逻辑、程心)でさえ、宇宙目線で見ると存在していなかったのと同じなのでは?と思えるくらいで、特に逻辑は好きなキャラで愛着を感じていたので、その影響力の小ささに少し切なく、キュンとなり、だからこそ短い人生の時間がかけがえのないものなのだと思わされました。
発想を変えると、個人的にはもともと宇宙目線は持っていたつもりで、(良い意味で)いろいろどうでもいい=世間の常識とか他人にどう思われるとかどうでもいい(法律とマナーを守った上でですが)と思っているので、その思いを再確認する機会にもなりました。宇宙目線で見たら私なんか塵of塵みたいなものなので、引き続き自分の好きなように楽しく生きていきたいと思いました。
三体シリーズ全体の考察
三体シリーズを読むときの注意点
劉慈欣とケン・リュウの言葉
三体シリーズを読むにあたり『折りたたみ北京』に収録されている下記の2つが参考になると思います。
- 劉慈欣さんのエッセイ『ありとあらゆる可能性の中で最悪の宇宙と最良の地球』
- 三体英語版翻訳者ケン・リュウさんの序文『中国の夢』
劉慈欣さんはカナダ人作家による「(三体が最悪の宇宙を書いているのは)中国と中国の人々の歴史的経験のせいだ」という指摘を否定しています。
ケン・リュウさんは「中国の作家たちは、地球について、たんに中国だけではなく人類全体について、言葉を発しており(略)」と書いています。
このことから、例えば、地球文明が三体文明に侵略される様を西洋や日本に侵略される中国に重ねることは、自己中心的で真実からはズレた読み方になってしまうことがわかります。
日本がモデルのキャラ、智子の意味
また、私たち日本人読者にとっては、三体文明のスーパーAIである智子(Sophon、着物、茶道、刀などから明らかに日本をモデルにしている)が地球人を酷く扱うシーンに、日本と中国の歴史を重ねている?と疑いたくなるかもしれませんが、
作者の劉慈欣さんはとあるインタビューで、智子(中国語で知能+粒子の意味)という名前がたまたま日本の女性の名前みたいだったので、日本をモデルにしたキャラクターにしただけと言っています。
これらのことから、私たち読者は余計な詮索をしないように注意する必要があると思います。
三体シリーズに劉慈欣さんが込めた願いとは?
再び『折りたたみ北京』です。この中に収録されているエッセイ『ありとあらゆる可能性の中で最悪の宇宙と最良の地球』で、劉慈欣さんは次のように書いています。
わたしが〈三体〉であらゆる可能性の中から最悪の宇宙を書いたのは、われわれが最良の地球を求めて努力できると願うからである。
つまり、三体がやったこととは、
ありとあらゆる可能性の中で最悪の宇宙を書く→地球存続の為にありとあらゆる可能性の中で最良の地球が必要になる→それを書くことで人類に一つの道を示す。
と解釈できないでしょうか。
カズオ・イシグロさんがクローン人間や人工知能を書くことで人間を探索していたように、劉慈欣さんは絶望を書くことで希望を探索しているのだと思いました。本当の目的を達成するために、逆側からアプローチするというのは、ある種の文学あるあるですね。
▼クローン人間が登場するカズオ・イシグロさんの代表作
三体第3部のタイトル『死神永生』と英題『Death’s End』の謎
作者の願いを読み解くにあたり、第3部『死神永生』のタイトルと、英語版のタイトル『Death’s End』が有力なヒントになっていると思います。
ネタバレ防止で抽象化すると、宇宙に存在する無数の文明が利己的に振る舞うと、宇宙が壊れて全員道連れで絶滅、二度とやり直せない = 死神永生。未来のことを考えて利他的に行動できれば、宇宙は死ななくなる = Death’s End。宇宙は地球に、各文明は各個人に置き換えれる。
同じ事象を絶望目線で表現したのが『死神永生』、希望目線で表現したのが『Death’s End』。
中国語原題には注意喚起の意図が、英題には願いが込められている、と私は推測しています。英題は翻訳者の案でしょうか?作者もOKしているのでしょうけど、あえて直訳を避けた理由が知りたいですね。
この宇宙にthe chosen one(選ばれし者)はいなくて、誰か1人の責任で宇宙の運命が決まる訳ではないけど、無数の1人1人が少しずつ小さな責任を負っている、自分の小さな担当分をちゃんとしようね、そうできる人類であってほしい、っていうのが作者のメッセージ、願いなのだと思いました。
三体シリーズのまとめ:SFを超えて神話に分類したい
最後に、冒頭に書いた「個人的にはSFの枠を超えて神話に分類したい」を回収して終わりにしたいと思います。
第3部『死神永生』の最後の方で、太陽系の滅亡が迫る中、地球のことを記録に残すため、紙や電子より耐用年数が長い、石に刻もうとなるのですが、中国文学最高の小説『紅楼夢(中国の神話、女媧補天で始まり、石に刻まれているという設定の物語)』と私の中で勝手に繋がり、三体がSFを超えた神話に思えて鳥肌ものでした。
紅楼夢は中国の女媧補天の伝説で始まります。神々の戦いで空が裂けてしまったのを、女媧が36,501個の石で補天しようとして、1個余った石を捨てたら、その石が悲しんで、仙人にお願いして人間界に行かせてもらって、そこでの一部始終を自分(石)に刻んだ。その石を見た人間が書き写して広めたっていう設定の作品です。
三体シリーズが本国中国で「地球往事3部作(中国語で「往事」は過ぎ去った過去のこと)」とも呼ばれていることとあわせ、神話風にまとめるとこんな感じでしょうか?(笑)
いつのことかはわかりません、宇宙という広い場所で100億年の時が流れ、その中の塵of塵ほどの小さな場所で、一瞬of一瞬の間、地球という星ができ、人間という生命が生まれ、文明が勃興しやがて滅びました。時は過ぎここは別の宇宙。そこに浮いていた石を拾ってみたら地球という星の一部始終が刻まれていた。読んでみたらとても面白かった。
この記事は以上です。ここまでお読みくださりありがとうございました。
三体シリーズの各部について、あらすじ・登場人物・感想を整理したので、もしよろしければ個別記事もご覧になってみてください!
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