私の人格形成に影響を与えた本、私の人生経験や現在の価値観に合う本という視点で選びました。
(好きな本10選、おすすめの本10選ではありません)
アルジャーノンに花束を、ダニエル・キイス
アルジャーノンは脳手術の動物実験で天才になったマウスです。チャーリィは知的障害があり初めてその脳手術を受ける人間です。脳手術で突然天才になったアルジャーノンとチャーリィ、その脳手術の効果と副作用とは?
私は読書が大好きで、これからもたくさんの本を読んでいくつもりなのですが、読書をすると自然に知識が増えていくので、うっかりするとチャーリィのように自分は頭が良い、他人はバカ、と勘違いしてしまうリスクも孕んでいると思っています。
なので、そのリスクの芽を摘むために、自分への注意喚起としてとても大切にしている作品です。
読書は知識量でマウントをとるためのものではなく、楽しみのため、そして想像力や共感力をはぐくむためのものだと思っています。
深夜特急、沢木耕太郎
バックパッカーのバイブル的な旅行小説。第一巻の香港・マカオ編からいきなり面白くて、特急のスピードで読み切りました。
沢木さんの泊まった香港の重慶大厦に自分も(偶然)泊まれたことがあり、それは良い思い出なのですが、エグすぎて二度と泊まりたくないと思うくらい汚くて引きました…(苦笑)
私はこの本を理由の1つに(キャリーケースで)世界一周の旅に出ました(CO2オフセット済)。世界を旅しても何も変わらないとも言えるけど、でも今の自分に影響がある部分もあって、一度きりの人生、世界を旅できて良かった、出会えて良かった本です。
1986年の発売以来いまだに多くの読者を魅了し続けている『深夜特急』ですが、2023年には斎藤工さん朗読によるオーディブルが発売になりました。既読であってもオーディブルで聞いてみるとまた違った感動があり楽しめますよ!
三体、刘慈欣
地球を侵略してくる三体星人vsそれを迎え撃つ地球人達の物語。
でも終わってみれば、宇宙100億年の間の塵of塵ほどの小さな場所と一瞬of一瞬の瞬間のこと。その儚さにキュンとなりました。
作者の刘慈欣さんは、『折りたたみ北京』に収録されているエッセイ『ありとあらゆる可能性の中で最悪の宇宙と最良の地球』で、次のように書いています。
わたしが〈三体〉であらゆる可能性の中から最悪の宇宙を書いたのは、われわれが最良の地球を求めて努力できると願うからである。
この宇宙に選ばれし者はいなくて、誰か1人の責任で宇宙の運命が決まる訳ではないけど、無数の1人1人が少しずつ小さな責任を負っている、
自分の小さな担当分をちゃんとしようね、って言われてる気がして、自分もちゃんとしようと思いました。
三部作の全部を読むのは長くて大変だったけど読めて良かった。だから読書は止められないって思えるくらい感動できた作品です。
『三体』は全三部作で、二部と三部はそれぞれ上下巻があり、トータル5冊の大作になっています。これを全部読むのはかなり大変なので、そんなときはオーディブルもおすすめです。
はてしない物語、ミヒャエル・エンデ
ドイツの世界的作家エンデによるファンタジー小説。ファンタジーはただの空想じゃなくて、将来を想像して備えるための力、ということを教えてもらった大切な作品です。
ファンタージエン(人間の夢が生み出した世界)が虚無に覆い尽くされようとしていて、ついには崩壊。主人公は本の世界に入ってファンタージエンを再建して行きます。ファンタージエンの崩壊は、経済的合理性を追求するあまり、想像することを忘れてしまった現代人への警鐘なのでしょう。
今は資本主義だから合理性もわかるんだけど、文化芸術的要素を大切にしてちゃんとバランスをとりたいなと思っています。
以下の絵はドイツのミュンヘンにあるミヒャエルエンデ博物館にあるものです。想像力に溢れ、優しい感じが伝わってくる絵がとても素敵でした。
なお、本作は装丁も物語の一部のため、文庫本ではなく、ハードカバー版で読むことをおすすめします。
ティファニーで朝食を、トルーマン・カポーティ
「ティファニーで朝食を」とは何の比喩?
私の解釈では、ティファニー=安らげる場所、朝食=そこを見つけたこと(安らかに寝れる→起きた後そこで朝食が食べれる)
本作は、安らげる場所を見つけたいという想いがヒロインのホリーを動かし、物語が動いて行きます。自由奔放なホリーに振り回されるのが楽しく、その自由さに憧れます。
ホリーの名刺には住所がなくて「旅行中」と書いてあったり、ホリーは檻の中の生き物を見るのが耐えられなかったりするのも好きな設定です。
今までに転職5回、引越しそれ以上、無職2回でその間に世界を旅したり、自分の中にもホリー的なものがある気がして、ホリーに憧れつつ感情移入してしまう作品です。
わたしの名は赤、オルハン・パムク
16世紀のイスタンブールを舞台に、世界の巨大文明、西洋とイスラムの価値観が正面衝突します。
西洋の影響を強く受けてる自分には、画家本人の個性やオリジナリティが悪とされたり、他にも色々、イスラムの価値観が本当に衝撃的で、想像の斜め上すぎて、自分の価値観をぶっ壊されて、目が覚める思いでした。
自分の価値観が正しいと決めつけず、自分とは全く違う価値観の人もいるのだと、一歩引いて想像力を働かせてみようと、自分への注意喚起になる大切な作品です。
トルコ のイスタンブールは物語のネタの質と量がワールドクラスです。歴史的には東ローマ帝国とオスマン帝国の首都、宗教的にはキリスト教とイスラム教、地理的には東洋と西洋の接点。
オルハン・パムクの『わたしの名は赤』は、最高の舞台で起こる極上のミステリーです。
アルケミスト 夢を旅した少年、パウロ・コエーリョ
スペインで羊飼いをしている少年がエジプトのピラミッドに宝物があるという不思議な夢を見ます。このまま羊飼い(現実)を続けるか、夢を信じて旅に出るか?少年は旅に出て、その途中で錬金術師と出会います。
Alchemy(錬金術)は金をつくることと思われがちですが、広義の意味は1つのものがより良いものに変わること。例えば、今より良い自分になることとか。
つまり、本当は可能なのにやる前から不可能と決めつけることの例としてAlchemyはぴったり。これに気づいたとき衝撃を受けました。
鉛が金になるのは小説の中だけで実際にはあり得ない。そんなことはわかっています。でも小説ならそれを書けるし、それに意味を持たすことができる。小説が持つ力を教えてくれた作品です。
「わしはできるということをお前に見せたかったのだよ。」
紅楼夢、曹雪芹
中国文学史上最高の小説。
主人公は貴族のお坊ちゃま、でも登場人物は庶民を含む400人以上で、喜怒哀楽、好きさいやよ、嫉妬、いじめ、陰謀、自殺、金、貧困、芸術など、人間の全てが書かれてると言っても過言ではない、圧倒的な凄みと深みがある作品です。
Wikiによると、台湾の作家「中国人からアヘン、麻雀、紅楼夢を取り上げたら、たちまち大発展してアメリカを追い越すだろう」。私も読んでいるときは中毒になって他のことが手につきませんでした。
但愿长醉不愿醒(俺の望みはただ1つ、いつまでも酔いから醒めないこと)
これは李白の『将進酒』内の一行で、お酒の詩ですが、紅楼夢の世界観や読んで中毒になる感じにも合うと思っています。
こちらは主人公達が詩を競い合う会「海棠詩社」の名前に採用した海棠の花です。
『紅楼夢』が好きすぎて、主人公達の真似で詩を書いてみたくなって、中国語のオンラインレッスンの先生に手伝ってもらい、中国語詩を作ってみたりもしました。内容は世界を旅して感じたことです。
游览外国看种种(外国を遊覧して種々を見る)
生活文化很新鲜(生活文化とても新鮮)
知道世界很不错(世界を知ることはとても良い)
但有别的更重要(でも他にもっと重要なことがある)
热冷富穷人都在(暑い、寒い、豊か、貧しい、どんな場所にも人がいて)
彼此边爱边工作(互いに愛し合い、働いている)
他们和我都一样(彼らと自分は全く同じ)
亲眼看到这事实(この事実を自分の目でみること)
『紅楼夢』では、政治経済は下々の者にやらせて、主人公達はただ遊んでいるだけ。100年後か1000年後か、AIが進化することで、少しでもそんな世界に近づいていたらいいな、未来の人たちうらやましい、なんて思っています。
風の歌を聴け、村上春樹
小説好きになるきっかけの本。冒頭の「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」からもう好き。デレク・ハートフィールドという作家が特に好きです。
結局何も言ってなくて、で?っていう内容だと思うのですが、それでも読んでて楽しかった事が衝撃で、小説って面白い!となりました。
何も描かずに何かを描く、カンディンスキーの抽象絵画みたいな小説だなとも思いました。読書で何かが得られればいいけど、何も無くても全然OK。好きだから、楽しいから、ただそれだけで読んでいます。
葬送、平野啓一郎
ショパンとドラクロワを中心に19世紀パリを舞台にした歴史小説。2人の穏やかな雰囲気が好きで、目標にしている人物像です。
葬送のおかげでショパンを好きになって人生に彩りが増しました。出会えて本当に良かった作品です。
葬送がきっかけでドラクロワの作品も好きになりました。ルーブル美術館の絵画と天井画、サン・シュルピス教会の壁画、いずれもすばらしかったです。
本作終盤で描かれる下院図書室の天井画も観たいのですが、ヨーロッパ文化遺産の日(毎年9月中旬頃)にしか一般公開されないため、まだ観れていません。いつかこの目で観てみたい…
もし余命がわかったら逆算して人生最後に読むと決めてる小説です。
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