この記事は↑のまとめ記事から切り出した個別記事です。
あらすじ
終末決戦から半世紀後、黒暗森林理論の抑止力によって、地球文明は三体文明と難しいバランスを保ちながら共存していた。地球文明は三体文明から科学技術を、三体文明は地球文明から文化芸術から学び、両文明は繁栄していく。地球文明はかつてないほどの黄金時代を謳歌し、相互破滅の脅迫無しに、三体文明と平和的に共存できる日がやがて訪れるかに思われた。しかしそれは地球文明の自己満足でしかなかった。
三体第3部『死神永生』の主人公は階梯計画の中心人物、程心。この計画は人類のスパイを三体文明に送り込むというものだったが、三体文明に到達するためには光の速さの1%で移動する必要があり、そのためには人間の体は重すぎる。そこで、末期患者で安楽死した人の脳だけを宇宙に送り出すこととなった(三体文明ほど科学技術が進歩していれば、脳だけ送っておけば後は三体人がなんとかしてくれるだろう)。
第2部の主人公の逻辑は、第3部でも重要な役割を担う。三体文明が地球文明を裏切った場合、太陽系の座標を全宇宙に発信し、お互いを滅亡させるためのスイッチを管理する執剣者に任命される。しかし逻辑も100歳を超え、さらには時代が女性的になったこともあり、この大役は程心に引き継がれる。しかし母性本能が強く愛を軸に判断する程心の存在が、この2文明の繊細なバランス関係を揺るがすことになる。
登場人物
- 程心:大学院で航空宇宙工学を学んだのち、国連惑星防衛理事会の戦略情報局にアシスタントとして就職。階梯計画の中心人物。
- 雲天明:程心の大学時代の同級生。モテない陰キャだけど、程心だけは優しく接してくれて(みんなに優しいだけ)、密かに恋心を抱く。社会に馴染めず、末期癌も患い、安楽死を決意。とあるきっかけで莫大な資産を得たため、死ぬ前に匿名で星(恒星DX3906)を程心にプレゼントする。
- 艾AA:恒星DX3906の中に地球型惑星を発見した大学院生。惑星の売却で巨額の資産を得た程心のアシスタントとなり、地球屈指の大企業(宇宙建設会社)を経営する。
- トマス・ウェイド:戦略情報局の長官、程心の上司。三体文明に脳を送り込むことを発案。鉄の意志を持つ。
- 逻辑:黒暗森林理論の発見者。100歳を超えるまで約半世紀も執剣者を務める。その後は冥王星に移住し、人類の遺産を集めた墓を作る。役割の変遷:面壁者→執剣者→最後の墓の管理人
- 関一帆:宇宙戦艦「万有引力」に乗船していた科学者。次元削減攻撃を逃れてS74390E2(DX3906の新しい名前)にやってきた程心と艾AAを出迎える。
- 智子:三体文明が遠隔操作する女性型AI。日本の着物を着ていて、茶室を持ち、茶道でゲストをもてなす。智子、程心、逻辑の3人は、この茶室で語り合う仲になる。戦う時の武器は刀。
物語は主人公の程心とそのサポート役の艾AAを中心に進んでいきます(どちらも女性)。一方、雲天明とトマス・ウェイドの男性キャラも、登場頻度では劣りますが重要な役割を担っているので注目です。
感想
宇宙は地球に置き換えれる
三体第3部『死神永生』は、全シリーズ中で最も宇宙戦争が活発化し「生存」することがテーマになっていると思います。
そこでふと、第2部『黒暗森林』の冒頭で示される宇宙社会学の公理って、地球に置き換えれるのでは?と思いました。
●宇宙社会学の公理
- 文明は生き残ることを最優先とする。
- 文明は成長し拡大するが、宇宙の総質量は一定である。
作中で各文明や各個人は「生存」を優先した行動をとるわけですが、長期的な目線で考えて、回帰者のロジックが正しいとすると〔自分の都合でミニ宇宙に質量を持ち出し、自分だけ次の宇宙に行こうとすると(利己的に振る舞うと)、今の宇宙がぶっ壊れて、取り返しがつかなくなる(死神永生)〕、作中の宇宙が、現実の地球のように思えて来ないでしょうか?
宇宙の(地球の)運命は誰か1人の責任で決まるわけではないけれど、1人1人が少しずつ小さな責任を負っている、だから自分の小さな担当ぶんをちゃんとしようね、って言われているような気がしました。
時代と共に価値観は変わる
作中で大衆の価値観がコロコロ変わっていくところが、面白いなと(怖いなとも)思いました(ネタバレを避けるため具体例は割愛)。
新しい事実を得ることで評価が変わることは全然いいと思うんですけど、後出しジャンケンで偉そうにあれこれ言うのはずるいなと思います。
大事なのは、そのときの手持ちの情報から、ちゃんとした判断が下せていたかどうかで、それができていればそのことは誇っていいこと、しっかり評価されるべきことなんじゃないかと思いました。
程心にイライラしつつも、感動もした
第3部主人公の程心の「程」は、第2部主人公の逻辑(logic)に近い意味の漢字で、そこに心が加わることで、プログラムが機能しないっていう意味の名前、キャラ設定と推測しました。大事な場面でグズるのは心があるから。
そんな程心にはイライラもさせられましたが、最後まで自分を貫いて戦争回避したとこはグッと来ました。
逻辑やトマス・ウェイドみたいな男性の重要キャラは、タカ派的に描かれていて危険だなと思いました。彼らが程心の立場だったら、もっと簡単に戦争になっていたかも?程心にイライラした自分も同じく危険だなと反省しました。
安易な発想ではありますが、世界各国のリーダーが女性になったら、今より戦争が減ったり、戦争勃発のリスクが下がったりするのかな?などと思いました。
この記事は以上です。ここまでお読みくださりありがとうございました。
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