シャーロック・ホームズの全集を、英語原文で読了しました!
BBCドラマ『シャーロック』が好きで、でも原作は読んだことがなく、いつか読みたいと思っていたのを、2023年に実行。
全集を読破するのは大変でしたけど、内容は本当に面白く、最初から最後まで楽しませてもらいました。
感動の熱が冷めないうちに、自分なりのまとめと感想をこの記事に整理しました。
全作/一部を、既読/未読など、様々な方がいると思いますが、シャーロック・ホームズが好きな方、興味のある方と、シリーズの面白さを共有しあえたらうれしいです。
- シャーロック・ホームズ作品紹介
- 1887年:緋色の研究 A Study in Scarlet(1st長編)
- 1890年:四つの署名 The Sign of Four(2nd長編)
- 1892年:シャーロック・ホームズの冒険 The Adventures of Sherlock Holmes(1st短編集)
- 1893年:シャーロック・ホームズの思い出 The Memoirs of Sherlock Holmes(2nd短編集)
- 1901年:パスカヴィル家の犬 The Hound of the Baskervilles(3rd長編)
- 1905年:シャーロック・ホームズの帰還 The Return of Sherlock Holmes(3rd短編集)
- 1914年:恐怖の谷 The Valley of Fear(4th長編)
- 1917年:最後の挨拶 His Last Bow(4th短編集)
- 1927年:シャーロック・ホームズの事件簿 The Case-Book of Sherlock Holmes(5th短編集)
- 外典 Apocrypha
- オーディブル版・洋書:Sherlock Holmes: The Definitive Collection
- 付録
シャーロック・ホームズ作品紹介
1887年:緋色の研究 A Study in Scarlet(1st長編)
シャーロック・ホームズとジョン・ワトソンの出会いや、Baker Street 221B番地でのルームシェアなど、伝説の幕開けです。
1890年:四つの署名 The Sign of Four(2nd長編)
特に好きなシーンがあるので、以下に引用します。
That is why I have chosen my own particular profession, or rather created it, for I am the only one in the world.”
(シャーロック・ホームズ)だから私は自分の特定の職業を選んだ、というか創った、私はこの世界で(それができる)オンリーワンだから。“The only unofficial detective?” I said, raising my eyebrows.
「唯一の非公式探偵?」私は言った、眉毛を上げながら。“The only unofficial consulting detective,” he answered.
「唯一の非公式コンサルティング探偵」彼は答えた。
シャーロック・ホームズが自分の職業「非公式コンサルティング探偵 the unofficial consulting detective」を自分で作ってるところが凄く良い。自分の欲しいものがなかったら自分で作る。人生を楽しむためのコツだと思います。
シャーロック・ホームズが自分をポジティブにオンリーワンだと思っていて(孤独ではなく)、自信を持ってunofficial非公式と言い切るところも凄く良い。他人の公認なんかいらない。自分のことは自分で肯定する。むしろ非公式であることを誇りに思うくらいの方がかっこいい。この設定が大好きです。
1892年:シャーロック・ホームズの冒険 The Adventures of Sherlock Holmes(1st短編集)
- ボヘミアの醜聞 A Scandal in Bohemia
- 赤髪組合 The Red-Headed League
- 花婿失踪事件 A Case Of Identity
- ボスコム谷の惨劇 The Boscombe Valley Mystery
- オレンジの種五つ The Five Orange Pips
- 唇の捩れた男 The Man with the Twisted Lip
- 青いガーネット The Adventure of the Blue Carbuncle
- まだらの紐 The Adventure of the Speckled Band
- 花嫁失踪事件 The Adventure of the Noble Bachelor
- 椈屋敷 The Adventure of the Copper Beeches
シリーズの人気を決定的なものにした短編集。
既刊2作の長編(緋色の研究、四つの署名)でシャーロック・ホームズとの出会いは完了していたけど、この名探偵の魅力はたったの2作に収まるようなものではありませんでした。
何か凄いことが始まったかも?とザワザワしていたであろうところに、この質と量の短編が次々と投下されたときの衝撃を、自分も追体験できたのかも。英語オーディブル版は登場人物の喜怒哀楽が音でも感じられて更に面白いです。
バラエティーに富んだ12の短編でシャーロックの魅力が大爆発。圧倒的な存在感にやられました。『ライ麦畑でつかまえて』風に言うと That killed me.
以下は特に印象に残った作品です。
ボヘミアの醜聞 A Scandal in Bohemia
シャーロック・ホームズに勝ったthe womanアイリーン・アドラーが登場。
冒頭の一文から引き込まれます。
To Sherlock Holmes she is always the woman.
シャーロック・ホームズにとって彼女は常に「あの女性」
theを付けて特別感を与えられていることから、the womanって誰?となります。
アイリーン・アドラーvsシャーロック・ホームズは、アイリーン・アドラーの勝ちなのか、両者引き分けなのか、解釈が割れるのかもですが、以下のとおり、beaten(打ち負かされた)と書いてあるので、アイリーンさんの勝ちに一票入れたいです。
that was 略 how the best plans of Mr. Sherlock Holmes were beaten by a woman’s wit.
この様にしてシャーロック・ホームズ氏の最高の計画が女性のウィットに打ち負かされた。
シャーロック・ホームズはこれ以降女性の賢さをバカにすることがなくなったとも書いてあり、逆に言うと当時(1891年)は見下す風潮があったということ?もしそうで、そこへのカウンターとしてアイリーン・アドラーを登場させたのなら作者のコナン・ドイルさん素晴らしい。社会をより良い方向に導いてくれる作品好き。
赤毛組合 The Red-Headed League
一番想像を超えてきた作品。
最初、『赤毛組合』ってなんやねん草wって少し舐めた感じで読み始めたところ、途中からグイグイ引き込まれ、結末がわかってうぉぉってなりました(自分ちょろすぎw)
初短編でアイリーン・アドラーという強目のキャラが登場して、めちゃくちゃ面白くて、え?この先大丈夫?このレベル維持するの無理じゃない?と心配したのは余計なお世話でした。作者様、すみませんm_ _m
唇のねじれた男 The Man with the Twisted Lip
良い子のボクには絶対に行けない阿片窟に行っていて、シャーロック・ホームズすげぇぇぇぇぇっ!ってなりました笑
1893年:シャーロック・ホームズの思い出 The Memoirs of Sherlock Holmes(2nd短編集)
- 白銀号事件 Silver Blaze
- 黄色い顔 The Yellow Face
- 株式仲買店員 The Stockbroker’s Clerk
- グロリア・スコット号事件 The ‘Gloria Scott’
- マスグレーヴ家の儀式 The Musgrave Ritual
- 背の曲った男 The Crooked Man
- 入院患者 The Resident Patient
- ギリシャ語通訳 The Greek Interpreter
- 海軍条約文書事件 The Naval Treaty
- 最後の事件 The Final Problem
シャーロック・ホームズより頭が切れる兄のマイクロフト・ホームズ、最大の敵ジェームズ・モリアーティが登場し、英語オーディブル版の朗読を担当したスティーブン・フライさん曰く、「おそらくは最高傑作(オーディブル序文)」
以下は特に印象に残った作品です。
グロリア・スコット事件 The Gloria Scott
シャーロック・ホームズの初事件。伝説はここから始まった、Where It All Began。
初対面の人の過去をズバズバ当てていくの凄すぎる(シリーズ初回の『緋色の研究』のワトソンとの初対面と重なる)。
この人に褒められて、ただの趣味だった推測が仕事になるかもと初めて思ったらしい。人に褒められて自信を持つのはシャーロック・ホームズも同じなんですね。ただの無感情推理マシンじゃなくて、ちゃんと人間味があるとこ好き。
黄色い顔 The Yellow Face
事件は解決したけど、シャーロック・ホームズの推理は外れていた回。ここでも人間味をブレンドしてくるの良い設定。
シャーロック・ホームズ→ジョン・ワトソン「過信や手抜きが見えたらノーバリ(この事件の舞台)と注意してほしい。」
シャーロック・ホームズにはジョン・ワトソンが必要。
ギリシャ語通訳 The Greek Interpreter
シャーロック・ホームズより推理力の高い兄のマイクロフト・ホームズが初登場する回。
シャーロック・ホームズは、ジョン・ワトソンとの対比だと変人だけど、マイクロフト・ホームズとの対比だと普通。兄の癖が強すぎて笑いました。
ディオゲネスクラブはロンドンで最も奇妙なクラブで、マイクロフトは最も奇妙な男達の1人。
it (the Diogenes Club) now contains the most unsociable and unclubable men in town.
クラブには最も非社会的で社交嫌いな男達が所属している。
no talking is, under any circumstances, allowed, and three offences, if brought to the notice of the committee, render the talker liable to expulsion.
会話はどんな状況でも許可されない(略)3回違反したら除名。
My brother was one of the founders
私の兄は(クラブの)創設者の1人。
最後の事件 The Final Problem
最強の敵ジェームズ・モリアーティ教授が登場する回。
普段はシャーロック・ホームズが犯人を追いかけるのに対し、今回はシャーロック・ホームズが犯人から逃げるっていう設定が新鮮でスリリング。
ジェームズ・モリアーティはシャーロック・ホームズとポジネガの関係で、同等の知能を犯罪に使う最強の敵。朗読も最初から今までにないトーンで、すぐに特別な回であることが伝わってきました。
私(シャーロック・ホームズ)と対等の知能を持つ敵についに出会った。
the cleverest rogue and the most powerful syndicate of criminals in Europe.
ヨーロッパで最も賢い悪人かつ最も強い犯罪組織(の親玉)。
if he could be assured that society was freed from Professor Moriarty he would cheerfully bring his own career to a conclusion.
もしこの社会からモリアーティ教授がいなくなるなら(この悪の組織を倒せたら)、私(シャーロック・ホームズ)は探偵業をよろこんで辞める。
1901年:パスカヴィル家の犬 The Hound of the Baskervilles(3rd長編)
四作ある長編の三作目。めちゃくちゃ面白くて驚きました!!!
今作の特徴は、目と口から火を吹く巨大な魔犬という超自然を使ってきたところ。
最初は科学、観察、論理のシャーロックの世界観が台無しになるかと懸念したけど、終わってみれば作中に上手く取り込んで着地していました。
そもそもフィクションですし、これくらいは許容範囲。むしろ、超自然を加えることで、既存の世界観をさらに進化させることに成功しているように思いました。
前作『最後の事件』が最高かつ特別な作品だったから、次どうするんだろう?と勝手に不安になっていたところ、こちらの予想を遥かに越えてきた。コナン・ドイルさんマジで凄い。
『最後の事件』(短編)の次も短編だと、どうしても比較されたり、前作を越えるのは難しかったかも。だからかは知らないけれど、次が長編なのはよかったと思う。単純比較を回避しつつ、超自然で新たな地平を開拓。ブラボーすぎる。
前作(1893年)を『最後の事件』としたのは違う作品を書きたかったから。でもファンは許してくれず、黒い腕章をつけてシャーロックとの別れを嘆き悲しんだ。作者に圧がかかりしぶしぶ執筆したのが本作(1901年)だそうです。
1905年:シャーロック・ホームズの帰還 The Return of Sherlock Holmes(3rd短編集)
- 空家の冒険 The Adventure of the Empty House
- 踊る人形 The Adventure of the Dancing Men
- 美しき自転車乗り The Adventure of the Solitary Cyclist
- プライオリ学校 The Adventure of the Priory School
- 黒ピーター The Adventure of Black Peter
- 犯人は二人 The Adventure of Charles Augustus Milverton
- 六つのナポレオン The Adventure of the Six Napoleons
- 金縁の鼻眼鏡 The Adventure of the Golden Pince-Nez
- アベ農園 The Adventure of the Abbey Grange
- 第二の汚点 The Adventure of the Second Stain
Sherlock Holmes is back!!!
『最後の事件』(1893年)から10年を経て、『空家の冒険The Adventure of the Empty House』(1903年)で連載を再開。
そして後続の作品と共に3rd短編集『シャーロック・ホームズの帰還』(1905年)へと結実。
(『バスカヴィル家の犬』(1901年)は『最後の事件』より前の話という設定だから、シャーロックの帰還ではない)
シャーロック・ホームズがいない間には色々なことがありました。ヴィクトリア女王の死去(1901年)、自動車メーカーフォードの創業(1903年)、文学ではモダニズムが台頭、ピカソは青の時代。
特に1905年は並外れていて、アルベルト・アインシュタインの特殊相対性理論、ジークムント・フロイトのエディプスコンプレックス、ロシア革命、ライト兄弟の初の動力(無風)飛行、そして短編集『シャーロック・ホームズの帰還』。
『最後の事件』は他の作品も書きたい作者にとってmillstone(石臼、重荷)になっていたシャーロック・ホームズを◯すために書かれた。でも意識的にか無意識的にか、はっきり◯した記載はなく、そのおかげで『空き家の冒険』での帰還に繋がった。あのとき可能性を保留しておいて本当に良かった!
以下は、特に印象に残った作品です。
空き家の冒険 The Adventure of the Empty House
I must have fainted for the first and the last time in my life.
“Work is the best antidote to sorrow, my dear Watson,”
犯人は二人 The Adventure of Charles Augustus Milverton
シャーロックがその能力を犯罪に使う特別な回。
今回の敵チャールズ・アウグストゥス・ミルヴァートンは、BBCドラマS3のラスボスのモデルになるほどの大物で、具体的にはロンドンで最悪の男、恐喝王(The worst man in London)(He is the king of all the blackmailers)
人の弱みにつけ込み恐喝する卑劣な敵にシャーロック・ホームズがブチ切れ。恐喝されている依頼人のプライベートな手紙を取り返すため、ミルヴァートン邸に忍び込む。
これは「道徳的には正当化されるけど、正確には犯罪。」(the action is morally justifiable, though technically criminal)
失敗したらシャーロックのキャリアが台無しになるけど、それでもやるのは、シャーロック・ホームズはただの推理マシーンじゃないから。
熱い話と思って読み/聴きしてたら、シャーロック・ホームズは有能な犯罪者になる自信があって、本件を好機と思ってたり(I don’t mind confessing to you that I have always had an idea that I would have made a highly efficient criminal. This is the chance of my lifetime in that direction.)
ジョン・ワトソンは法律を守る側にいたときよりワクワクしていたのには笑いました(I thrilled now with a keener zest than I had ever enjoyed when we were the defenders of the law instead of its defiers.)
1人で行かせないジョン・ワトソンと、それを受け入れるシャーロック・ホームズの友情が熱い!
the serpents in the Zoo, and see the slithery, gliding, venomous creatures
動物園の蛇、ツルツル滑る邪悪な生き物
slithery(滑りやすい、ツルツルした)はハリポタのスリザリンの語源かな?
E is the most common letter in the English alphabet
英語ではEが一番使用頻度が高い
第二の汚点 The Adventure of the Second Stain
アルベルト・アインシュタインの特殊相対性理論など、世界史的に並外れていた1905年出版『シャーロック・ホームズの帰還』の最後を飾る作品。
シャーロック・ホームズ完全復活と思っていたら、冒頭からまた終わりそうな匂わせが…
ジョン・ワトソン曰く前作で最後にしようと思ってたとか、シャーロック・ホームズが出版に後ろ向きとか、シャーロック・ホームズは既に引退したとか。
事件はヨーロッパが戦争に発展しかねないほど重要な一方で、犯人がやってることは非常にしょうもないこと。このギャップを面白いととるか、小さなことに大きなことを掛け合わせて無理矢理凄い感を演出したととるか。
モリアーティ、ミルヴァートン、アイリーン等の強めのキャラはもう使い切ってるし、この先がだいぶ不安になりました。
1. 光電効果
2. ブラウン運動
3. 特殊相対性理論
4. E=mc^2
1914年:恐怖の谷 The Valley of Fear(4th長編)
4つある長編の最終作。事件はイギリスで起こるけど、前日譚はアメリカの炭鉱街にまで遡る。
ここまで色々読んできて、シリーズの魅力の一つに、コナン・ドイルさんのこのグローバルな視点があると思う。
(イギリス連邦という感覚がそうさせているのか、または個人的要因か?)
いくつかの作品では、事件の背景にアメリカ、オーストラリア、インドなどでの前日譚があって、イギリス人読者にとっては海外に目を向けるきっかけになったり、海外文学的な楽しさもあったのでは?
日本人にとってはイギリスの小説が既に海外文学なのに、そこから話が外国に飛ぶと、海外文学好きの心がさらにくすぐられる。
本作はモリー・マグワイアズというアイルランド系アメリカ人の実在の秘密結社をモデルにした物語。彼らはただの犯罪者集団か、資本家(労働者から不当かつ危険な労働条件で搾取している)と戦う正義の味方か?
1917年:最後の挨拶 His Last Bow(4th短編集)
- ウィステリア荘 The Adventure of Wisteria Lodge
- ボール箱 The Cardboard Box
- 赤い輪 The Adventure of the Red Circle
- ブルース・パティントン設計書 The Adventure of the Bruce-Pardington Plans
- 瀕死の探偵 The Adventure of the Dying Detective
- フランシス・カーファクス姫の失踪 The Disappearance of Lady Francis Carfax
- 悪魔の足 The Adventure of the Devil’s Foot
- 最後の挨拶 His Last Bow
短編集の最初にジョン・ワトソンの序文があり、シャーロック・ホームズが引退したことが明かされる。
表題作は『His Last Bow: An Epilogue of Sherlock Holmes』で、エピローグという位置付け。語り手はいつものジョン・ワトソンじゃない第三者で特別感、最終回感がありました。
本短編集は全5作中の4作目(1917年発行)。結果的にはまだ続くけど、リアルタイムの読者の気持ちになってみると、最終回まで失速することなく楽しませてもらえた、ブラボー!!!
以下は、特に印象に残った作品です。
最後の挨拶 His Last Bow
この表題作も短編集と同じく1917年発表で、物語は1914年8/2の設定、悪役はドイツのスパイ。
1914年は第一次世界大戦が始まった年で、『最後の挨拶』の冒頭から不穏な空気が漂う。
6/28サラエヴォ事件
8/1ドイツがロシアに宣戦布告
8/2『最後の挨拶』はこの日の設定
8/3ドイツがフランスに宣戦布告
8/4イギリスがドイツに宣戦布告
8/23日本がドイツに宣戦布告
この8月をコナン・ドイルさんはthe most terrible August in the history of the worldと表現。
最後の会話でシャーロック・ホームズが言う“There’s an east wind coming, Watson.”から本格的開戦前夜の不穏な空気が感じられます(戦争が始まった大陸はイギリスから見て東)
シャーロック・ホームズっていうエンタメ作品の最後が、こういう終わり方なのは意外でした。時代の空気を捉えたという意味では貴重な作品。
ていうか、本当はもっと前の『最後の事件』で終わるはずだったのが再開して、今回の『最後の挨拶』で今度こそ終わったと思いきや、結局また再開することになるの草。
クラシックコンサートの最後に演者が何回も退がったり出たりを繰り返すあれみたい(笑)
1927年:シャーロック・ホームズの事件簿 The Case-Book of Sherlock Holmes(5th短編集)
- 高名な依頼人 The Adventure of the Illustrious Client
- 白面の兵士 The Adventure of the Blanched Soldier
- マザリンの宝石 The Adventure of the Mazarin Stone
- 三破風館 The Adventure of the Three Gables
- サセックスの吸血鬼 The Adventure of the Sussex Vampire
- 三人ガリデブ The Adventure of the Three Garridebs
- ソア橋 The Problem of Thor Bridge
- 這う男 The Adventure of the Creeping Man
- ライオンのたてがみ The Adventure of the Lion’s Mane
- 覆面の下宿人 The Adventure of the Veiled Lodger
5thかつ最後の短編集(1927年)シャーロック・ホームズシリーズはこれで本当に終わり。
コナン・ドイルさんは30年以上前から辞めたがっていて、『最後の事件』(1893年)や『最後の挨拶』(1917年)で2回ガチで辞めようとして、それでも再開してここでようやくfinished。
本短編集の作者による序文で、ピークを過ぎた人気テノール歌手が寛大な観客に甘えて別れの挨拶を繰り返してる様と、シャーロック・ホームズシリーズが重ねられていたのが意外でした。作者はそう思っていたのか。
シリーズのピークを一つ選ぶなら『最後の事件』だと思うけど、この回は特別だし、それ以降がピーク後の下り坂とは思わない。最初から最後までずっと面白かった。ブラボー!!!
以下は、特に印象に残った作品です。
マザリンの宝石 The Adventure of the Mazarin Stone
外典の戯曲『王冠のダイヤモンドThe Crown Diamond』を原型とした作品。元戯曲らしく、終始ベイカーストリート221Bで完結するところが、戯曲的かつ他の作品と違って印象に残りました。
外典 Apocrypha
シャーロック・ホームズ全集 Sherlock Holmes : Complete Collection(洋書)
正典(Canon):長編4作、短編56作の合計60作品
外典(Apocrypha):それ以外の作品、作者はコナン・ドイルさんとは限らない
シャーロック・ホームズはあまりの人気ゆえに、シリーズ公式の60作以外にも作品が派生しています。
それらは外典(Apocrypha)と呼ばれ、作者のコナン・ドイルさんが書いたものもあれば、他の作者が書いたものもあります。
上記シャーロック・ホームズ全集(Sherlock Holmes : Complete Collection)には、The Unofficial Storiesとして外典が収録されています。
以下は、その中で印象に残った作品です。
Uncle Jeremy’s Household(1887年)
シャーロック・ホームズシリーズのプロトタイプと思われる作品。
緋色の研究(1887年)の10ヶ月前に書かれたらしいです。
主人公の、Hugh LawrenceはBaker Streetに住み(シャーロックのモデル)、友人はJohn H. Thurston(ジョンも”John H.” Watson)。
でも、Hugh Lawrenceは医学生だけど、シャーロックは大学で化学を学んだ。John H. Thurstonは化学者だけど、ジョンは医師。これらは逆になったみたい。
ダメではないけど、正典の方がだいぶ面白い。シャーロック・ホームズというキャラの発明は偉大でしたね。
The Story of the Lost Special消えた臨時列車(1898年)
セレブ的名声を持つアマチュア推理家が以下のように発言。
“It is one of the elementary principles of practical reasoning,” he remarked, “that when the impossible has been eliminated the residuum, however improbable, must contain the truth.”
これは明らかにシャーロック。ほぼ同じ内容が正典内で複数回登場するし、elementary(初歩的な)もシャーロックがよく使う言葉です(笑)
Rediscovered Railway Mysteries & Other Stories(オーディブル・洋書)
- An Inscrutable Masquerade
- The Conundrum of Coach 13
- The Trinity Vicarage Larceny
- The 10.59 Assassin
こちらはジョン・テイラーさんによる外典で、上記4作品を収録。
最大のおすすめポイントは、BBCドラマでシャーロックを演じたベネディクト・カンバーバッチさんが朗読を担当していること!ドラマで聴き慣れたあの声と早口で、シャーロックだ!ってなります。
シャーロック・ホームズの世界観をしっかり継承していて、正典と言われても普通に納得できるクオリティーだと思います。4作全部好き。
初読時も面白かったけど、全集を通過した後で聴いてみると、本作の良さを以前よりも感じられました。本当にこういう正典ありそう。ブラボーです!!!
オーディブル版・洋書:Sherlock Holmes: The Definitive Collection
こちらはシャーロック・ホームズ全集のオーディブル版です。
長編4作、短編56作の、合計60作を収録し、約72時間の大作となっています。
複数の登場人物を異なる声で演じ分け、感情も乗っていて、聴いていて楽しい作品でした。
朗読者のスティーブン・フライさんは10歳頃にシャーロック・ホームズ協会に入会してるほどのシャーロキアンで、各長編と短編集の前に収録された序文も聴き応えがあります(14歳のとき総会に出席した後、期限内に寮に帰らず退学になってるの草)。
作品を愛してる人に読んで貰えるのは、作品、作者、読者のすべてにとって幸せなこと。朗読者がスティーブンさんで良かった。ボクの中でシャーロックとジョンはスティーブンさんの声で刻まれました。
このオーディブル版の表紙は、たぶん100年前のロンドン(上)と現在のロンドン(下)で、良いデザインだなと思って気に入っています。
シャーロック・ホームズの連載は19世紀末〜20世紀序盤までだから、今から約100年前。
この100年で英語も変化したっぽく、読み/聴きしていると少し違和感がありました。
例えば、今のexcept(除く)がsaveだったり、please(どうぞ)がprayだったり、on earth(疑問の強調)がin thunderだったり、その他、見慣れない単語が散見されます。
でも逆に、100年程度ならこれくらいの違和感で済むとも言えるのかも。これが400年前のシェイクスピアさんの時代になるともう全くわからないので・・・笑
付録
シャーロック・ホームズの名言
You see, but you do not observe.
君は見ているが、観察していない。
出典:Scandal in Bohemia(ボヘミアの醜聞)(短編集『シャーロック・ホームズの冒険』収録)
I have no data yet. It is a capital mistake to theorise before one has data. Insensibly one begins to twist facts to suit theories, instead of theories to suit facts.
データはまだない。データを持つ前に理論化るのは致命的な過ちだ。無自覚に人は理論に合うように事実をねじ曲げる、事実に合わせて理論を作るのではなく。
出典:Scandal in Bohemia(ボヘミアの醜聞)(短編集『シャーロック・ホームズの冒険』収録)
when you have excluded the impossible, whatever remains, however improbable, must be the truth.
不可能を除外した後に残ったものは、どれだけ可能性が低かろうと、真実である。
出典:The Adventure of the Beryl Coronet(緑柱石の宝冠)(短編集『シャーロック・ホームズの叡智』収録)
“Data! data! data!” he cried impatiently. “I can’t make bricks without clay.”
「データ!データ!データ!」彼はイライラして叫んだ。「粘土がなければ煉瓦は作れない。」
出典:The Adventure of the Copper Beeches(ぶな屋敷)(短編集『シャーロック・ホームズの冒険』収録)
We approached the case, you remember, with an absolutely blank mind, which is always an advantage. We had formed no theories. We were simply there to observe and to draw inferences from our observations.
私達は事件に取り組んだ、君も覚えているだろう、頭を完全に空っぽにして、それはいつでも強みになる。私達は何も理論を作らなかった。私達は単純にそこで観察し、その観察から推論した。
出典:The Cardboard Box(ボール箱)(短編集『最後の挨拶』収録)
Such slips are common to all mortals, and the greatest is he who can recognize and repair them.
そのような失敗はすべての人間に共通で、最も偉大な人間は失敗を認識し修正できる者のことだ。
出典:The Adventure of the Devil’s Foot(悪魔の足)(短編集『最後の挨拶』収録)
シャーロック・ホームズらしい言葉
※括弧内の数字はKindle内検索ヒット数
- Obvious/Obviously 明らかな/明かに(150)
- Simplicity 簡単(11)
- Elementary初歩的な (9)
- Science of deduction 推論の科学(5)
- Balance of probability 確率のバランス(4)
- Train of reasoning 論理の繋がり(5)
- Chain of reasoning 論理の繋がり(3)
その他の使用頻度の高い単語
- Perhaps おそらく(281)(確信度は30-40%、maybe(40-50%)よりフォーマル)
- Probably 十中八九は(101)
- Deduction 推論、演繹 (55)
- Observation 観察(55)
- Science 科学(52)
- Reasoning 推論、論拠(49)
- Probability 確率 (27)
シャーロック・ホームズとジョン・ワトソンの関係
Except yourself I have none.
シャーロック:君(ジョン)以外に友達はいない。
出典:The Five Orange Pips(オレンジの種五つ)(短編集『シャーロック・ホームズの冒険』収録)
Your merits should be publicly recognized. You should publish an account of the case. If you won’t, I will for you.
ジョン:君の功績は社会に認識されるべきだ。君は事件の報告書を出版するべきだ。君がそうしないなら、君の為に私がそうする。
出典:緋色の研究(A Study in Scarlet)
We have shared this same room for some years, and it would be amusing if we ended by sharing the same cell.
シャーロック:私達は数年間ルームシェアをしてきた。(仮にこの作戦が失敗して)刑務所で同部屋になるのも面白い。
出典:The Adventure of Charles Augustus Milverton(犯人は二人)(短編集『シャーロック・ホームズの帰還』収録)
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