『サロメ』とは?
『サロメ』はアイルランドの小説家・劇作家のオスカー・ワイルドさんによる、新約聖書を元にした戯曲です。
初演は1896年で初版は1893年(いずれもフランスでフランス語)、英語版は1894年に出版。
初めて日本語に翻訳したのは森鴎外さん。最近では2012年の平野啓一郎さん訳が有名です。
『サロメ』は劇や本という形式を超え、オペラ(リヒャルト・シュトラウス)化されたり、数々の画家にインスピレーションを与え、多くの作品が生まれました(後述)。
主人公のサロメはファム・ファタールです(元々は「運命の女」→最近は「魔性の女」の意味で使われることが多い)。
『サロメ』のあらすじ
物語は、ユダヤの王ヘロデが自分の兄である前王を殺し、妃を奪い今の座に就いたところから始まります。
主人公のサロメはこの妃の娘。宴の席でヘロデ王の視線が嫌になり、預言者ヨカナーン(洗礼者ヨハネ)が幽閉されている井戸へ向かいます。
ヨカナーンはヘロデ王と妃の悪徳を不吉な言葉でなじるため、二人に嫌われています。ヘロデ王はこの予言者を恐れ、うかつに処刑できず、彼との面会も禁止としています。
しかしサロメは見張り番を篭絡し、ヨカナーンと対面。彼に恋をするも、すぐに拒絶されます。
サロメは、ヘロデ王から何でも褒美を与えるという条件で踊りを要求されると、それを承諾し、「7つのヴェールの踊り」を踊ります。
サロメが褒美に要求したのは、ヨカナーンの生首でした。ヘロデ王は嫌がりますが、約束は約束。サロメは銀の皿で運ばれてきた生首に口づけします。
『サロメ』の感想・考察
好きなポイント3選
サロメの愛憎
ヨカナーンの体が欲しい→拒否られる→酷い体と蔑む→髪が欲しい→拒否→蔑む→口が欲しい…愛が拗れて憎になるの怖面白い。
ヨカナーンの予言
月が血の様に赤くなると予言→サロメが7つのヴェールの踊りをする前に月が赤くなるの怖いけど雰囲気最高でゾクゾクする。
ヘロデ王の狼狽
一番偉いはずのヘロデ王がサロメにヨカナーンの首を要求されて狼狽するのが滑稽かつ皮肉が効いてて面白い。
『サロメ』の考察3選
サロメがヨカナーンの首を求めるときのラリー
ヘロデ王「宝石とか他のお願いに変えて」→サロメ「嫌だ首が欲しい」
このラリーを何度も繰り返すのは読んでて怠かったです。私は英語版で読んだのですが、
最初はask(ニュートラルなお願い)を2回→次はdemand(強めの要求)1回→ここまでやって怠くなったのか最後はgive me(ストレートな表現)を3回。
合計6回も同じラリーをするのは流石に怠いと思います(舞台でやる戯曲の表現としては効果的なのでしょうか?)
と言うか、ここから逆算すると、『サロメ』はお堅い文学的側面だけでなく、エンタメ的な側面もある作品なのかもしれません。
新約聖書を元にした~とか言われると、なんだか深い意味があったり真面目な作品なのかと思いがちですが、ここまでラリーを繰り返すのは、ふざけてやってるとしか思えないです。
真面目な側面もあるのかもしれませんが、真面目100%ではなく、エンタメ要素もある作品なのだと思いました。
そもそも『サロメ』は戯曲ですからね。「戯」は、おどけ、たわむれ、冗談などの意味の文字ですし。
サロメの色仕掛け
よく『サロメ』の解説や感想を読んでいると、サロメが見張り番を「色仕掛け」で篭絡した的なことが書いてありますが、この点に少し疑問を感じました。
私が読んだ英語版では、サロメは下記の様に言っただけで明確に色仕掛けとは読めなかったのです。
I will let fall for you a little flower
(あなたに花を落としてあげる)
I will look at you 略 it may be I will smile at you
(あなたを見ます 略 あなたに微笑みます)
でも、まあ、文脈的には「色仕掛け」と考えることもできるのかもしれませんね。
ヘロデ王のいやらしい目
こちらも、ヘロデ王がサロメを見ていたと書いてあるだけで、「sexualな目」みたいな明確な表現はありませんでした。
ただ、下記2点の様な周辺の記載から「いやらしい目」と解釈することもできるかもしれませn。
Your beauty troubled me
(あなたの美しさが私を困らせる)
She (the moon) is naked
(月は裸だ)
「サロメの色仕掛け」も「ヘロデ王のいやらしい目」も、文字だけを見てAIのように判断すると、そこまでは読めないかもしれませんが、文脈から行間を読み取ると、そう解釈することもでき、その能力がAIにない人間の特徴なのかもしれません。
『サロメ』でオスカー・ワイルドがやったこと
以下は英語版Wikipediaをチェックして、なるほどと思ったことのメモです。
- サロメのイメージを「女性の欲望の肉体化」に変えたのはフランスの作家達。ワイルドがしたことは、はサロメの踊りを、王のゲストの為の公的なもの(聖書の記載)から、王の為の個人的なものに変えたこと。
- オスカー・ワイルドの母国語は英語だが、あえてフランス語で書いた。そのことで、ネイティブが使わない表現が混入し、作品に娯楽的要素や新たな面白みが加わった。
上記2からも、『サロメ』は真面目100%ではない、エンタメ要素もある作品であるという推測が支持されると思います。
『サロメ』に関連する他の芸術表現
リヒャルト・シュトラウスのオペラ(7つのヴェールの踊りが有名)
オーブリー・ビアズリーの挿画
オーブリー・ビアズリーの挿画は、1894年に出版された英語版に収録されました。
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