時計仕掛けのオレンジ:あらすじ・原書で読んだ感想・考察 アンソニー・バージェス

時計仕掛けのオレンジ:あらすじ・原書で読んだ感想・考察 アンソニー・バージェス イギリス

『時計仕掛けのオレンジ』とは?

『時計仕掛けのオレンジ』はイギリスの小説家アンソニー・バージェスさんが1962年に発表したディストピア小説です。

本作は世界文学史上に残る名作とされ、以下のリストにも選出。

  • 1923年以降に書かれた英語の小説ベスト100」(2005年、タイム誌)
  • 20世紀の英語の小説ベスト100」(1998年、モダン・ライブラリー及びその読者)

作者のアンソニー・バージェスさんは43歳のとき治療不可能な脳腫瘍と診断され、これをきっかけに専業の作家になります。自分に残された限られた時間で執筆に専念し、このとき完成した作品群の一つが本作。一人の才能ある作家が残りの人生を賭けて完成させた作品として、特に真剣に読みたい作品だと思います(脳腫瘍は後に誤診と判明します)。

作品の表面はセックス、ドラッグ、ヴァイオレンスで過激ですが、その裏面では10代の若者が抱える将来への不安や人間の尊厳などを扱っており、表面だけで拒否反応を示してしまうにはもったいない名作です。

本作は、作者が創作した若者言葉「ナッドサット語」にも要注目です。リアルな若者言葉を使いたいけれど、そうすると時とともに古びてしまうというジレンマが・・・作者は独自の言葉を創作することでこの問題を解決しました。ナッドサット語は本作を理解するうえでも重要な意味を持つため、感想・考察で詳しく取り上げます。

『時計仕掛けのオレンジ』のあらすじ

第一部:アレックスの超暴力

主人公アレックスは仲間とともにドラッグ入りミルク「ミルクプラス」をキメ、超暴力(Ultra-Violence)を楽しむ日々を送る。ライバルギャングのビリーボーイのチームをボコしたり、レコード店にベートーヴェンの『第九』を取りに行ったときに10歳未満の女の子をナンパし、家に連れ込み、セックスをしたり、『時計仕掛けのオレンジ』という小説を書いた作家の家を襲撃し、妻をレイプしたり。しかし、独裁的なやり方が仲間の反感を買い、猫を沢山飼っている金持ち老女の家を襲撃したときに嵌められ、警察に逮捕される(彼女はアレックスの暴行で死亡)。

第二部:刑務所での服役と更生治療

アレックスの刑期は14年。人間動物園のような刑務所で2年が経過する。早く出所したいアレックスは、残りの刑期をなくすことと引き換えに、新たな更生治療であるルドヴィコ療法の最初の被験者になる。この療法は、薬剤で嫌悪感を刷り込みながら超暴力シーン(ホラーショー)の映画を見せ続けることで、嫌悪感を超暴力で条件付けするもの。ホラーショーのBGMはクラシック音楽なため、大好きなクラシック音楽も嫌悪感の発動条件となる。こうしてアレックスは時計仕掛けのおもちゃのような、機械仕掛けの人間となる。

第三部:出所後に受ける報復とアレックスの政治利用

出所したアレックスは、かつて超暴力を加えた相手に報復を受ける。仲間の一人ディムとライバルのビリーボーイは警官になっており、この2人にボコされたあと、見覚えのある家に助けを求める。そこは『時計仕掛けのオレンジ』を書いたアレクサンダーの家だった。アレクサンダーとその仲間たちは現政府に反感を持っており、アレックスを利用して政府の支持率を下げようと目論む。

『時計仕掛けのオレンジ』の登場人物

アレックス

本作の主人公。ナカーマ3人を引き連れるギャングのリーダー(15歳)。セックス、ドラッグ、ヴァイオレンスでNo Futureな日々を送る。

洋書版イントロによると、Alexという名前はa-lex = without the law or outside the law(無法または法外)という意味。

クラシック音楽が好きで、特にベートーヴェンが好き。ベートーヴェンのことはLudwig vanと呼ぶ。

キリスト教にも信仰心があり、ときどき聖書で使われている古語英語を使う。

F・アレクサンダー

『時計仕掛けのオレンジ』という小説を書いた作家。アレックスのギャング4人組に家を襲撃され、暴行を受け、妻はレイプされる。妻はこれが原因で後に死亡。

※作者のアンソニー・バージェスさんの妻は、ロンドンのギャングに凌辱され、流産した経験があり、それが元ネタになっていると思われます。

ブロドスキー博士

ルドヴィコ療法と呼ばれる新しい更生治療の開発者。アレックスは14年の刑期を2年に短縮する代わりに、このルドヴィコ療法を受ける。

内務大臣

ルドヴィコ療法を推進し、犯罪率や囚人数を減少させようとする政治家。英語原文ではthe Minister of the Interior(内務大臣)だが、アレックスはthe Minister of Interior or Inferior(内務又は低級大臣)と呼び、ここからアレックスが反省していないことが読み取れる。

『時計仕掛けのオレンジ』の感想・考察

緻密に計算された構成美

本作は各部7章で統一された計3部21章から成り、各部の冒頭は「What’s it going to be then, eh?(これからどうする?)」で統一されています。

各章もテンポよく進み、読んでいてダレることがなく、最初から最後まで楽しく読むことができました。

無駄な脂肪のない細マッチョ。グレートギャツビーや金閣寺タイプ。個人的に、このタイプ大好きです(笑)

タイトルの意味

タイトルはas queer as a clockwork orange(時計仕掛けのオレンジのように奇妙)というCockney(ロンドン労働者階級)のスラングから。

作者が創作したナッドサット語で、orangeはmanの意味。つまりタイトルは「時計仕掛けの人間」。時計仕掛けのおもちゃになってはいけないし、そのような人間を作ろうとする政府を許してはいけない。

このようなメッセージが込められていると思われます。

作品のテーマ

10代の若者が抱える将来への不安

全3部の各部の冒頭は「What’s it going to be then, eh?(これからどうする?)」で統一されており、この台詞は作中で計14回も繰り返し発言されます。

作者は、十代の若者が抱える将来への不安を作品のテーマの1つに据えているのかもしれません。

人間の尊厳

善人になることを(選択権なしに)強制されるより、悪人になることを自分で選択できる方がいい?

作者の答えはYes。

実際、作中では以下のように書かれています。

if all you bastards are on the side of the Good then I’m glad I belong to the other shop.
もしお前らクソども全員が善人側なら、俺は喜んで他の店(悪人側)に行く。

Is a man who chooses the bad perhaps in some way better than a man who has the good imposed upon him?
悪事を選択できる人間は、善人であることを強制された人間より、ある意味では優れているか?

A man who cannot choose ceases to be a man.
選択することのできない人間は、人間であることを辞めている。

自分の頭で考えて、自分の意思で選択することは大切なことだと思いますが、だからと言って悪人にならなくてもよいのでは?

と正直思ってしまいますが、そこは主張をわかりやすくするための対比として軽く流して、作者の本来の意図を汲み取るように努めたいと思います(笑)

ルドヴィコ療法

作者が捜索した架空の療法。人権の観点で許容できないある種の洗脳ですが、理論的には可能であり、過去に類似の実験が行われたこともあるようです。

本作では、薬剤で嫌悪感を誘導した状態で、超暴力シーンを集めた映画(ホラーショー)を見せ続け、超暴力で嫌悪感が発動するように条件付けするもの。タイトルの「時計仕掛け(機械仕掛け)」部分は、ここから来ていると考えて間違いないと思います。

作者はナッドサット語という独自の若者言葉を創作しており、その一つhorrowshowは要注目です。

Horrowshow(ホラーショー)はロシア語のハラショー(Good、素晴らしい)を元にしていて、本作でも同じ意味で使用されています。ルドヴィコ療法前のアレックスにとって、超暴力は「Good、素晴らしい」の意味で、Horrowshowなものでした。

しかし、このhorrorshowはhorror showに分解でき、すると「ホラーショー=恐怖のショー」という意味になり、ルドヴィコ療法後のアレックスにとって、超暴力は意味が反転し、恐怖のショーとなります。

ところで、ブロドスキ―博士はホラーショーのBGMにクラシック音楽(ベートーヴェンの第五番交響曲)を使用しており、このような恐ろしい療法に芸術を利用していることから、芸術への愛や理解がないキャラクター設定になっています。

機械仕掛けの人間を量産しようとする政府は、芸術にも理解がないことが想像され、そのような政府を批判する意味も込められているように思います。

『キャッチャーインザライ』との比較

共通点

本作『時計仕掛けのオレンジ』は、イギリス版『キャッチャーインザライ』と呼べるかもしれません。

本作が持つ「10代の若者が抱える将来への不安」という側面は、『キャッチャーインザライ』の主人公ホールデン君が、行く宛もなくNYを彷徨ったり、セントラルパークの池が凍る冬の間アヒル達がどこへ行っているのかを気にしているところと重なります。

大人のphony(インチキ)に反発しているところも両作の主人公同士で重なります。

まだn=2ですが、探せば他にも例はありそうですし、10代の悩みは国境も時代も越える普遍的な問題説あると思います。

相違点

『時計仕掛けのオレンジ』のアレックス君がやっていることは犯罪。暴力、レイプ、窃盗、ドラッグ等々、やっていることが酷すぎて、この部分は全く共感も同情もできません。

一方『キャッチャーインザライ』のホールデン君は、お口は悪いですけど、犯罪はしないですし、何だかんだで愛される良い子キャラ。

広い意味では、『時計仕掛けのオレンジ』をイギリス版『キャッチャーインザライ』と呼ぶこともできるかもしれませんが、主人公の悪さは全然違うので、ここは混同しないように注意したいところです。

また、アレックス君に嫌悪感を抱くということは、作者の設定や描写が成功していることの証でもあると思うので、彼への嫌悪感と作品の評価を混同することのないようにも注意したいと思います。

補足メモ:アレックス君はキリスト教に信仰心あり、ホールデン君は無神論者(キリストは好きだけど、聖書のことは気にしないし、弟子達が嫌い)

映画版

時計仕掛けのオレンジ A Clockwork Orange 映画版 アマゾンプライム

『時計仕掛けのオレンジ(アマゾンプライム対象)』は、1971年にスタンリー・キューブリック監督により映画化され、映画史上においても名作という評価を得ています。

  • アカデミー賞やゴールデングローブ賞にノミネートされ、ヒューゴー賞など様々な賞を受賞。
  • アメリカ映画ベスト100に選出(AFI[アメリカン・フィルム・インスティテュート]がアメリカ映画100年シリーズ」の一環として)。
  • 主人公のアレックスはアメリカ映画100年のヒーローと悪役ベスト100で悪役として12位。
  • 2020年、アメリカ議会図書館によって「文化的、歴史的、美学的に重要」とみなされ、アメリカ国立フィルム登録簿に保存。

映画版ポスターに書かれている「主たる興味はレイプ、超暴力、ベートーヴェン」からわかるように、「レイプ」「超暴力」というキーワードで拒否反応を示す人もいそうです。本作は映像化するとエグくなるため、その意味では本で読んだ方が良い作品だと思います。

私は実際に映画も観てみましたが、超暴力シーンが衝撃的で物議を醸したのもわかります。また、暴力シーンのBGMが優雅なクラシック音楽だったのが印象的でした。暴力はいけないことですが、アレックス君達はそれを楽しんでいるわけだから、この組み合わせは理にかなっていると思います。

舞台は近未来全体主義国家とのことで、室内には近未来感があり、屋外は今まで訪れた東欧の旧社会主義国家のそれに似ていて、映画が表現する世界観には納得できました。

原作小説と同様、映画も最初から最後まで無駄なく緻密に構成されていて、観ていて違和感もなく、完成度は高いと思いました。名作という評価に賛成です。

ただし一点だけ、映画では小説の最終章がカットされているようで、ここは残念でした。内容的に、最終章はとても重要だと思うので、映画は観たけど小説はまだという方は、ぜひ小説もご覧になってみてください。

その他

作者は主人公アレックスの設定として「キリスト教への信仰心あり」「クラシック音楽好き(その中でもベートーヴェン好き)」としましがが、そこに込められた意図とは?

ここはまだ解読できていないので、未来への備忘録としてここにメモしておきたいと思います。

善悪を選択する権利については、キリスト教が関係しているのかも?

ナッドサット語特集

ナッドサット語とは?

ナッドサット語は、作者のアンソニー・バージェスさんが捜索した若者言葉です。

作者は『時計仕掛けのオレンジ』の執筆に際し、リアルな若者言葉を使いたかったけれど、そうすると作品が時とともに古びてしまうことを懸念していたそうです。

この問題を回避するために生み出したのが、ナッドサット語というわけです。独自に創作した言葉であれば、古びることはありませんからね。ブラボーな解決策だと思います。

ナッドサット語はロシア語の知識があると推測しやすいらしく、以下は簡単な例です(Nadsat/ロシア語/意味の順)。

  • Droog(ドルーグ)/друг(ドルーク)/友達
  • Horrorshow(ホラーショー)/хорошо(ハラショー)/良い、素晴らしい
  • Bolshy(ボルシャイ)/Большо́й(ボリショイ)/大きい
  • Rabbit(ラビット)/работа(ロボット)/仕事、労働
  • Moloko(モロコ)/молоко(モロコ)/牛乳

ナッドサット語は作者の創作なので、英語ネイティブでも文脈から意味を推測する必要があります。その意味で、我ら英語非ネイティブにとっては、さらに難易度は高くなってしまいますが、完璧主義をやめる練習、意味を推測する練習としては良い教材かもしれません。

英語原文の中にナッドサット語が混ざっている感覚を、日本語などの他言語に翻訳するのは不可能だと思います。そもそも不可能なことに挑戦しているという意味で、翻訳者さんを批判してはいけないと思います。

主観で選ぶナッドサット語10選

ご参考までに、英語原文を読んでいて重要と思ったナッドサット語を10個選んでみました。

  • Viddy / See 見る ※1
  • Malenky / Little 少し ※2
  • Horrorshow / Good 素晴らしい ※3
  • Droog / Friend 仲間
  • Gulliver / Head 頭
  • Tolchock / Hit 殴る
  • Devotchka / Girl 女の子
  • Krovvy / Blood 血
  • Britva / Razor カミソリ
  • Appy polly loggy / Apology お詫び ※4

※1 使用例 Long time no viddy(久しぶり)

※2 使用例 a malenky bit (a little bit)

※3 Horrorshowはロシア語のハラショー(Good)とHorror Show(恐怖のショー)のダブルミーニング。

※4 語感がふざけてる、謝る気ないやろ(笑)

主なナッドサット語(使用頻度順)

ナッドサット語 / English 和訳 / キンドル内検索ヒット数
※他の単語と混ざってしまうため、正確な数値は未確認

▼人間に関するナッドサット語
Veck / Guy 男 / 198
Droog / Friend 仲間 / 94
Malchick / Boy 少年 / 56
Ptitsa / Girl 女 / 55
Devotchka / Girl 女の子 / 47
Chelloveck / Fellow 男・人 / 49
Baboochka / Old woman 老女 / 15
Bratchny / Bastard クソ野郎 / 5

▼体に関するナッドサット語
Rooker / Hand 手 / 87
Litso / Face 顔 / 77
Gulliver / Head 頭 / 69
Goloss / Voice 声 / 68
Glazzies / Eyes 両目 / 65
Noga / Foot 足 / 33
Plott / Flesh 肉体 / 30
Pletcho / Shoulder 肩 / 17
Nagoy / Naked 裸 / 15
Groodies / Breasts 胸 / 13
Yarbles / Balls 睾丸 / 12
Ooko / Ear 耳 / 8
Rot / Mouth 口 / ※

▼形容詞のナッドサット語
Horrorshow / Good 素晴らしい / 107
Starry / Old 古い / 105
Malenky / Little 少し / 99
Bolshy / Big 大きい / 51
Skorry / Quick 早く / 50
Grazhny / Dirty 汚い / 30
Oddy knocky / Lonesome 一人ぼっち / 18
Gloopy / Stupid バカな / 14
Loveted / Caught 捕えられた / 5
Bezoomy / Mad 狂った / 2

▼動詞のナッドサット語
Viddy / See 見る / 154
Creech / Scream 叫ぶ / 104
Smeck / Laugh 笑う / 75
Tolchock / Hit 殴る / 66
Slooshy / Listen 聞く / 56
Govoreet / Speak 話す / 48
Peet / Drink 飲む / 30
Itty / Go 行く / 28
Crast / Steal 盗む / 14
Filly / Play 弄ぶ / 13
Razrez / Rip 破る / 9
Snuff It / Die 死ぬ / 8
Pony / Understand 理解する / 7

▼その他の名詞のナッドサット語
Von, Vonny / Smell におい、臭い / 65
Millicent / Policeman 警察官 / 48
Slovo / Word 言葉 / 45
Platties / Clothes 服 / 40
Bog / God 神様 / 34
Mesto / Place 場所 / 30
Lewdies / People 人々 / 24
Nochy / Night 夜 / 18
Cancer / Cigarette タバコ / 17
Plenny / Prisoner 囚人 / 17
Jeezny / Life 人生 / 15
Nadsat / Teenage 10代の / 14
Pretty Polly / Money 大金 / 14
Cutter / Money 小銭 / 13
Pishcha / Food 食べ物 / 13
Rabbit / Work 仕事 / 10
Moloko plus / Milk Plus 麻薬入り牛乳 / 3
Appy polly loggy / Apology お詫び / 2
Orange / Man 男 / 2
Cal / Shit クソ / ※

▼Ultra-Violenceに関連するナッドサット語
Krovvy / Blood 血 / 36
Britva / Razor カミソリ / 25
Nozh / Knife ナイフ / 14
In-out-in-out / Sex セックス / 7
Oozy / Chain 鎖 / 6

アレックスがよく使う言葉

Like:英語的には違和感のある用法

  • 頻度:900回以上(通常の用法と混在しているため、正確な数値は未確認)
  • 例:Some gangs would gang up to as to make like malenky armies for big night-war, 略
  • 訳:いくつかのギャングは大きな夜の戦争に向けて小さな軍隊みたいなものを作るために団結する。
  • 正確にはmake something like malenky ~だと思いますが、somethingを言うのが面倒なのかlikeで済ますことで若者言葉感を出していると思われます。

※malenkyはlittleの意味のナッドサット語

and all that cal:文末にやたらと付けてくる

  • 頻度:28回
  • 例:I don’t mind about the ultra-violence and all that cal.
  • 訳:オレは超暴力だなんだのクソのことは気にしない。
  • and all that calは上手く訳せないのですが、「関連するもの全てを含む的な雑な言い方」のニュアンスで用いられていると思われます。

※calはshit(クソ)の意味のナッドサット語

『キャッチャーインザライ』の主人公ホールデンが「and all」を文末につける口癖と似ていると思います。

例:I’d just be the catcher in the rye and all.(僕はライ麦畑のキャッチャー(的なナンヤカンヤ)になりたい。)

ホールデンの口癖は以下の記事にまとめてありますので、ご参考までです。

ライ麦畑でつかまえて:あらすじ・原書で読んだ感想・考察 J.D.サリンジャー
『ライ麦畑でつかまえて』とは? 原題は『The Catcher In The Rye』 原題:The Catcher In The Rye 作者:J.D.サリンジャー 発表:1951年 舞台:当時のニューヨーク 形式:長編小説 物語:高校を...

Ultra-violent/ultra-violence:ギャング達を象徴する言葉

  • 頻度:15回
  • 例:I gave them the ultra-violence, 略
  • 訳:オレはアイツ等に超暴力をした。
  • 英語としても意味が通じますが、これもナッドサット語の1つ。

What’s it going to be then, eh?:各部の書き出しはこれで統一

  • 頻度:14回
  • 例:What’s it going to be then, eh?
  • 訳:これからどうする?
  • 各部の書き出し以外でも繰り返し使用→本作のテーマの一つ「若者が抱える将来への不安」を表していると思われます。

O my brothers:読者は兄弟

  • 頻度:87回
  • 例:You may, O my brothers, have forgotten what these mestos were like, ~
  • 訳:あなた(読者)は、オー私の兄弟、これらの場所がどんなだったか忘れているかもしれない、~
  • どう訳せば良いかわからないですが、語り手かつ主人公のアレックスは、読者を兄弟だと思っているようです。

※mestoはplaceの意味のナッドサット語

Your Humble Narrator 自分のことは下げる

  • 頻度:18回
  • 例:~ it was Your Humble Narrator that had done the real dirty tolchocking and brutality.
  • 訳:本当に汚い暴力と残虐行為をしたのは、あなた(読者)のつつましいナレーターでした。
  • 語り手かつ主人公のアレックスは自分のことをこう呼びます。単語頭は大文字なので、アレックス独自の用法です。自分を下げているのは、おそらくキリスト教や聖書に関心がある設定と繋がっていると思われます。

※tolchockはhit(殴る)の意味のナッドサット語

The Minister of Interior or Inferior 大臣を見下した表現

  • 頻度:9回
  • 例:~ it was none other than the minister of the Interior or Inferior.
  • 訳:略 それは他ならぬ内務又は低級大臣だった。
  • Interior内務とInferior低級のスペルが似ていることから、このようなdisり表現になっていると思われます。

※The Minister of Interior or Inferiorには次のような変形パターンもあり:The Minister of Inferior or Interior / Inferior Interior Minister / the Interior Inferior / Int Inf Min

thou, thy, thee, thine:聖書で使われる古語英語

  • 頻度:不明(thouとthyが他の単語と混ざってしまうため、正確な数値は未確認)
  • 例:Never fear. If fear thou last in thy heart, O brother, pray banish it forthwith.
  • 訳:決して恐れるな。もしそなたの心に恐怖があるなら、オー兄弟、すぐに消してください。
  • 例:I make no appy polly loggies to thee or thine for that.
  • 訳:私はそれについてそなたに謝罪はしません。
  • 一つ目の例文では、Ifの中の語順が現代英語的にはおかしく、古語の語順と思われます。prayはpleaseの古い言い方。

※appy polly loggiesはappology(謝罪の複数形)の意味のナッドサット語

Well well wellなど、同じ単語を3回繰り返す

  • 頻度:10回
  • 例:Well well well well well well well. If it isn’t little Alex.
  • 訳:あれx7。アレックス君じゃないですか。
  • この例はサプライズの場面なので強調されて7回ですが、同じ単語を3回繰り返すパターンは作品中でよく見られます。

以下はその他の例です。

  • Hi hi hi:ハーイx3(2回)
  • Yum yum mum:おいしいx3(最後はmumだけど)(1回)
  • Good good good:良いx3(4回)
  • Naughty naughty naughty:いけないんだx3(1回)
  • Right right right:正しいx3(11回)

ギャング達に囲まれたときを想像して、同じ単語を3回繰り返されると怖さが増すと思います・・・

付録:アレックスが好きなクラシック音楽

モーツァルト:交響曲第41番ハ長調(ジュピター)


モーツァルト:交響曲第40番ト短調(ルドヴィコ療法前後で長調から短調になっているのもきっと意図がありそう)

バッハ:ブランデンブルグ協奏曲

メンデルスゾーン:真夏の夜の夢

ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調、特に最終楽章(アレックスは「the glorious Ninth」と呼ぶ)

※ルドヴィコ療法時に聴かされたのは交響曲第5番ハ短調

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