『ライ麦畑でつかまえて』とは?
原題は『The Catcher In The Rye』
- 原題:The Catcher In The Rye
- 作者:J.D.サリンジャー
- 発表:1951年
- 舞台:当時のニューヨーク
- 形式:長編小説
- 物語:高校を退学になり寮を出た16歳の少年が、家に帰るまでの3日間の出来事。
- テーマ:子供のイノセンスvs大人のフォニー(インチキ)。
- 映画化:なし
作者はJ.D.サリンジャー
- アメリカの小説家(1919年1月1日 ~ 2010年1月27日)
- 第二次世界大戦に従軍。過酷な戦場を生き延びた。
- 戦後PTSDに苦しむが、それを乗り越え発表した『The Catcher In The Rye』が大ヒット。
- 詳しくは、映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』がおすすめ。
『ライ麦畑でつかまえて』にまつわるあれこれ
- 全世界で6500万部以上の売上(現在でも毎年50万部以上売れ続けている)
- ジョン・レノン殺害犯マーク・チャップマンの愛読書
- 関連作品:天気の子(家出した主人公が所有)、攻殻機動隊(ハッカーの笑い男が『ライ麦畑~』の文↓を引用)
- 引用文:I thought what I’d do was, I’d pretend I was one of those deaf-mutes(僕は耳と目を閉じ、口をつぐんだ人間になろうと考えた)
『ライ麦畑でつかまえて』のあらすじ
全体を一行で要約
16歳の主人公ホールデンが高校を退学になり、寮を出て家に帰るまでの3日間の出来事を、ホールデン目線の口語体で語る。
三日間を三行で要約
- 1日目:高校を退学になり、寮を出て、家のあるニューヨークへ夜行列車で移動する。
- 2日目:今家に帰り、両親が退学を知る時に鉢合わせるのがいやで、ニューヨークの街をプラプラして1日時間をつぶす。
- 3日目:ニューヨークに居場所がなく、西部にヒッチハイクしようとするが、妹のフィービーにキャッチされる。
全26章を26行で要約
テーマ
子供のイノセンスと大人のフォニー(インチキ)の間で揺れ、社会に適合できない少年の気持ち(夏目漱石の『坊ちゃん』と太宰治の『人間失格』を足して2で割った感じ?)。
『ライ麦畑でつかまえて』の登場人物
主な登場人物 10人
- ホールデン・コールフィールド:本作の主人公(サリンジャーを投影)
- D.B.:ホールデンの兄、作家(サリンジャーを投影)
- アリー:ホールデンの弟(キャッチャー役)
- フィービー:ホールデンの妹(キャッチャー役)
- アクリー:寮の学生(年上)で、隣の部屋に住んでいる
- ストラドレーター:寮のルームメイト、ハンサムでナルシスト
- サリー:ホールデンのデート相手、めちゃかわいい
- ジェーン:ホールデンの家の隣に住んでいた女の子、厳密には美人ではない
- スペンサー先生:退学になった高校の歴史の先生、お説教がうざい
- アントリーニ先生:昔の高校の国語教師、最高の先生
↑の記事では、主要な登場人物10人を、英語原文を引用しながら紹介しています。
各キャラクターの特徴がわかる部分を抜粋していますので、ご参考までです。
本記事ではサンプルとして、主人公のホールデンを例に、一部を抜粋して紹介します。
ホールデン・コールフィールド:本作の主人公、16才(サリンジャーを投影)
髪の右半分が白髪
I’m six foot two and a half and I have gray hair. I really do. The one side of my head–the right side– is full of millions of gray hairs. I’ve had them ever since I was a kid.
僕は身長6.25フィート(約190cm)で白髪がある。本当にあるんだ。頭の片側は、右側は何百万本もの白髪でいっぱいだ。僕は白髪だ、子供の頃からずっと。
白髪が老化=成熟=大人になることの象徴ならば、ホールデンは半分子供で、半分大人っていうキャラ設定だと解釈できます。
得意科目は国語
All I said was English was my best subject.
僕はただこう言った、国語が一番の得意科目だと。
作家になるほど国語が得意なサリンジャーと重なるキャラ設定ですね。
赤いハンチング帽子を逆向きにかぶる=野球のキャッチャー
and then I put on this hat that I’d bought in New York that morning. It was this red hunting hat, with one of those very, very long peaks. 省略 It only cost me a buck. The way I wore it, I swung the old peak way around to the back–very corny, I’ll admit, but I liked it that way. I looked good in it that way.
そして僕は今朝ニューヨークで買った帽子をかぶった。それはこの赤いハンチング帽子だ、とてもとても長いタイプのツバがついている。省略 それはたったの1ドルだった。僕のかぶり方は、ツバを後ろ向きにする、とても田舎くさい、それは認める、でも僕はこのかぶり方が好きなんだ。僕にはこのかぶり方が似合う。
帽子のツバを後ろ向きにする=野球のキャッチャー=ライ麦畑のキャッチャーと解釈できますよね。本作は赤いハンチング帽子に注目して読み進めると、より深い読み方ができます(下記記事参照)。
『ライ麦畑でつかまえて』の感想・考察
RyeとLie、韻を踏んでいる
- Rye:ライ麦〔発音=ライ(rái)〕
- Lie:ウソ〔発音=ライ(lái)〕
『ライ麦畑でつかまえて』を英語版『The Catcher In The Rye』で読むと、Rye(ライ麦)とLie(嘘)で韻を踏んでいることに気がつきます。
大きなヒントは2つあって、1つは単純な発音、もう1つは文中で何度も出てくる「Phony(インチキ)」という単語。
「Phony(インチキ)」は「Lie(嘘)」の類義語ですし、物語自体も16歳の少年ホールデンが大人の「Phony = Lie」に反発する内容ですから、「Phony」と「Lie」の関連に気がつくのはそれほど難しいことではないと思います。
「The Catcher In The Rye」じゃなくて「The Catcher In The Lie」。
サリンジャー本人の意図や、学術的な見解まではわかりかねますが、英語ならではの発見があるのは面白いと思います。
※参考:その他の事例
『ティファニーで朝食を』
- ヒロインの名前:Holly(ホリー)
- ホリーの描写で使われる単語:Phony(フォニー)
- 「ホリー」と「フォニー」が韻になっている。
『グレート・ギャツビー』
- 主人公の名前:Jay Gatsby(ジェイ・ギャツビー)
- Jayの意味:間抜け、おしゃべり屋、カケス(鳥)
- つまり、ギャツビーは喜劇的な役割のキャラ
『ライ麦畑でつかまえて』は文体が魅力的
『ライ麦畑でつかまえて』はとにかく文体が魅力的だと思います。
主人公ホールデン・コールフィールドによる口語体の自分語り、という形式も手伝ってか、本当に、唯一無二の世界観がある。
一例として、本作で登場する架空のレコード『Little Shirley Beans』という曲の、fan fiction (ファンが勝手に作った曲)がYouTubeにあったので、そのコメント欄を紹介します。
和訳:すべてのコメントが典型的なホールデン・コールフィールド・スタイルなのがすごくいい、マジで。大好きだ。本当に。
「I swear it. I love it. I really do.」がうまく訳せないのですが、この部分は典型的なホールデン・スタイルです。
以下のコメントもすべて、英語で『ライ麦~』を読んだファンなら一目でわかる、典型的なホールデン・スタイル。みんなこの文体を真似している=やられちゃっているし、いいねもたくさんついていることがおわかりいただけると思います。
『ライ麦畑でつかまえて』の何がおもしろいかわからない。ただ高校生が社会にブーブー文句を言って、3日ニューヨークをプラプラするだけの物語でしょ。
って思っている人は、ぜひ英語で『ライ麦畑でつかまえて』を読んでみてほしいです。
英語の難易度は「下の上」か「中の下」くらいなので、中学・高校レベルの単語・文法力があれば十分に読めます。
洋書といっても英語の難易度はピンキリで、『ライ麦畑でつかまえて』はかなり読みやすい部類なので、英語だからと読まず嫌いせず、ぜひチャレンジしてみてください。
きっと、人間ホールデン・コールフィールドの魅力に気がつくはずです。
イノセンスvsフォニー:ホールデンが戦っていたものは、今も解決されていない
『ライ麦畑でつかまえて』は全世界で6500万部以上が売れていて、今でも毎年50万部が売れているそうです。
そのことは、ホールデンが戦っていたものは、今でも解決されていないことの表れなのだと思います。
世界にはまだ『ライ麦畑でつかまえて』が必要ですし、その中でも特に、私に刺さった以下の部分が必要だと思います。
Happily, some of them kept records of their troubles. You’ll learn from them―if you want to. Just as someday, if you have something to offer, someone will learn something from you. It’s a beautiful reciprocal arrangement. And it isn’t education. It’s history. It’s poetry.
幸いにも、彼らの何人かは悩みの記録を残してくれている。君は彼らから学ぶことができる ー もし君が望めばだけれどね。同じようにいつか、もし君に何か人に与えられるものがあれば、誰かが君からそれを学ぶだろう。これは美しい相互援助だ。教育じゃない。歴史だ。詩だ。
これには本当にやられました。That killed me.
文学って本当にいいものだなと思います。
『ライ麦畑でつかまえて』を書いたのは誰?
『ライ麦畑でつかまえて』の書き手には、ホールデンとD.B.の2人の可能性が考えられると思います。
普通に考えればホールデンなのでしょうけれど、実際はそう単純ではなさそうなんですよね。
そのことがわかる、最初の1章と最後の26章を見てみましょう。
ちなみに、ホールデンもD.B.もサリンジャー自身を投影している登場人物であり、D.B.は作家という設定になっています。
1章
I’ll just tell you about this madman stuff that happened to me around last Christmas just before I got pretty run-down and had to come out here and take it easy. I mean that’s all I told D.B. about, and he’s my brother and all.省略 そのすべては僕がD.B.に語ったことだ 省略
26章
D.B. isn’t as bad as the rest of them, but he keeps asking me a lot of questions, too. He drove over last Saturday with this English babe that’s in this new picture he’s writing. She was pretty affected, but very good-looking. Anyway, one time when she went to the ladies’ room way the hell down in the other wing D.B. asked me what I thought about all this stuff I just finished telling you about.省略 彼(D.B.)は僕(ホールデン)にたくさんのことを質問し続けた。 省略 僕が今あなたに語り終わったすべてのことをどう思ったか、D.B.は僕に聞いてきた。 省略
ホールデンはこの話を兄で作家のD.B.に語り、D.B.はホールデンにその時どう思ったかをすべて聞いています。
つまり、この物語の語り手はホールデンで確定だけれど、書き手に関しては
- ホールデン自身が書いた
- 兄のD.B.が聞き、書いた
という二つの可能性が考えられると思います。
もしくは、0 or 100 ではなく、最初と最後だけホールデンが書いて、その間をD.B.が書いたのかもしれません。
ホールデンもD.B.もサリンジャーを投影した登場人物と考えれば、最初から最後まで主語が「I(アイ=私)」であることにも納得がいきます。
個人的には、この性格のホールデンが、中編小説サイズの文章を書くとは考えにくいと思っています。メンタルの治療の一環で文章を書くということもあるかもしれませんが、本作中でそのようなことは触れられていないので、証拠はないのが実情です。
いずれも想像の域を出ませんが、単純にホールデンが書いたものと決めつけるのはちょっと違うかな、と思わされる構造だと思います。
ちなみに、物語の中で、ルームメイトのストラドレイターの作文を、ホールデンが代わりに書くシーンがあるのですが、なぜ他人の作文をホールデンが書くのか?ちょっとした違和感が残ります。
もしかしたらこれは、「この物語を書いてるのも、ホールデンじゃなくてD.B.だよ」っていう、サリンジャーから読者へのヒントなのかもしれません。
セントラルパークのアヒルの話、めっちゃわかる
セントラルパークの池にいるアヒルは、池が凍る冬の間、どこに行くのか?
一見くだらない問いに見えますが、とても重要な意味がありますので、初めて『ライ麦畑でつかまえて』を読む方は、軽く流さないよう、注目して読んでみてほしいです。
なぜなら、以下の2点から、サリンジャーがこの問いを意図的に書いていることが明らかだからです。
- 全26章中、2, 9, 12, 20の合計4章でアヒルの話になる。
- 『ライ麦畑でつかまえて』の原型となった短編『I’m Crazy』でも同じアヒルの話がある。
アヒルの話に意味がないのであれば、4回も繰り返さないはずですし、短編から長編に仕上げる時にカットしてるはずですよね。
なぜサリンジャーは、ここまでアヒルの話にこだわるのか?
- 行き場もなく、ニューヨークの街をさまようホールデンを、池が凍り居場所がなくなったアヒルと重ねている
- 高校生のホールデンが抱えている、将来の進路への不安を象徴している
といった可能性が考えられると思います。
個人的に、その気持ちはとてもよくわかりますし、そもそもの比喩や不安を抜きにして、(冬の間アヒルはどこに行くのか?という)純粋な疑問という意味でも、共感できる問いです。
つまり、細かな疑問をそのままにせず、しっかり、きっちり、はっきりさせたい。
なぜなら、こういう小さなことをないがしろにするところから、大人のフォニー(インチキ)が始まると思うから。
逆に言うと、細部を諦めることが、大人になるということなのかもしれませんね。
アヒルの話にめっちゃ共感している時点で、私はまだ子供なのかなと思いましたwww
『ライ麦畑でつかまえて』は誤訳?キャッチする側とされる側問題
『ライ麦畑でつかまえて』のタイトルは誤訳では?という問いがよくありますが、私の考えでは誤訳どころか名訳だと思います。
本件は、これだけで一記事書けるくらいの内容なので、↓の記事に分けました。
回転木馬でのラストシーン
25章
Boy, it began to rain like a bastard. In buckets, I swear to God. All the parents and mothers and everybody went over and stood right under the roof of the carrousel, so they wouldn’t get soaked to the skin or anything, but I stuck around on the bench for quite a while. I got pretty soaking wet, especially my neck and my pants. My hunting hat really gave me quite a lot of protection, in a way; but I got soaked anyway. I didn’t care, though. I felt so damn happy all of sudden, the way old Phoebe kept going around and around. I was damn near bawling, I felt so damn happy, if you want to know the truth. I don’t know why. It was just that she looked so damn nice, the way she kept going around and around, in her blue coat and all. God, I wish you could’ve been there.やれやれ、雨が降り始めた、クソみたいに。バケツの中みたいだ、僕は神に誓う。他の親、母、全員、回転木馬の屋根の中に逃げ込んだ、ずぶ濡れにならないように、でも僕はベンチの周りに立っていた、かなりの時間。僕はずぶ濡れになった。、特に首とパンツが。僕のハンチング帽子はかなり雨をしのいでくれた、ある意味;でも僕はずぶ濡れになった、とにかく。僕は気にしなかったけど。僕はとても幸せに感じた、突然、オールド・フィービーが(回転木馬で)周り続ける様子に。僕は大声で叫びたくなるくらい、とてつもない幸せを感じた、本当のことを言うと。なぜかはわからない。ただ彼女がとてもナイスに見えた、彼女が周り続ける様子が、青いコートを着ていたりなんやかんやが。まったく、君もここにいればよかったのに(君にも見せたかった)。
このラストシーンは、正直、1回読んだだけではよくわかりませんでした。
なぜホールデンは回転木馬に乗るフィービーを見て幸せを感じたのか?
再読したり、ネットで他の人のコメントを読んで行くと、どうやら下記の2点が重要な意味を持っているようです。
- ホールデンは、ある種のものは、ずっとそのままでいるべきだと思っている(16章)
- 妹のフィービーは、昔から回転木馬が大好きで、今も昔と同じように回転木馬を楽しんでいる。
16章
Certain things, they should stay the way they are. You ought to be able to stick them in one of those big glass cases and just leave them alone.ある種のものは、ずっとそのままでいるべきだ。大きなガラスケースに入れて、そのままにしておくことができたら一番いい。
上記2点を踏まえた上で、ラストシーンを解釈すると
- 崖から落ちてしまった自分を妹のフィービーがキャッチしてくれた。
- キャッチャーのフィービーが、回転木馬で回り続ける様に、ある種の永遠性を感じた。
- キャッチャーが永遠性を獲得したので、キャッチされた自分も永遠に安心な気がした。
フィービーだって大人になるし、永遠なんてないことはホールデンもわかっていると思いますが、でも、この時は、確かに永遠を感じた。
たとえ錯覚であったとしても、永遠を感じたその瞬間は、確かに幸せを感じた、ということなのだと思います。
ホールデンのニューヨークでの3日間は、このシーンで終わり(25章)、最終章26章の精神病患者が療養する施設へ物語の時間と場所が移動します。
ホールデンが社会に反発するところは夏目漱石の『坊ちゃん』、精神を病むところは太宰治の『人間失格』みたいだなと思います。
『ライ麦畑でつかまえて』の成立過程
映画:ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー
映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』は、サリンジャーの半生を描いた伝記映画です。
もちろん、『ライ麦畑でつかまえて』の誕生過程も含まれているので、本書をより深く理解したい方にとっては、おすすめの映画です。
過酷な戦場や、戦後PTSDで苦しむシーンは、胸に迫ってくるものがあり、『ライ麦畑でつかまえて』のファンである私は、この映画を見て本当に良かったと思いました。
ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー(アマゾンプライム対象)
『ライ麦畑でつかまえて』の原型:短編2作
Slight Rebellion Off Madison
この短編はホールデン・コールフィールドが初めて登場した作品です。
1941年に雑誌ニューヨーカーに掲載が決まっていましたが、太平洋戦争の開戦により、作品の掲載は延期され、サリンジャーは失望します(掲載は1946年に)。
『Slight Rebellion Off Madison』と『ライ麦畑でつかまえて』の違いは、例えば
- 『Slight Rebellion Off Madison』:ホールデンとサリーのデート中、2人はキスをする。
- 『ライ麦畑でつかまえて』:デート中、2人はキスしない。
この2作の間で、ホールデンのキャラが発する印象がどう違うか、物語のどこがカットされ、何が追加され、どのように仕上がったか、これらに注目して読むと楽しいです。
I’m Crazy
『I’m Crazy』は、1945年、雑誌コリアーズに掲載された短編で、こちらも『ライ麦畑でつかまえて』の原型となる作品です。
両作品の違いは、例えば
- 『I’m Crazy』:高校を退学になった後、ニューヨークの街はさまよわず、家に直帰する。
- 『ライ麦畑でつかまえて』:退学と家の間に、ニューヨークをさまよう物語を追加。
サリンジャーが、『Slight Rebellion Off Madison』と『I’m Crazy』という素材を、どのようにリアレンジし、『ライ麦畑でつかまえて』に仕上げたかのか?
そこを意識して読むと、『ライ麦畑〜』ファンは楽しめると思います。
これらの短編から完成版へと発展していく過程は、映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』にも描かれています。
サリンジャーと『ライ麦畑でつかまえて』をより深く理解するために、必見かつおすすめの映画です。
原書『The Catcher In The Rye』からわかること
英語の難易度/レベル:「下の上」か「中の下」
私の主観では、『The Catcher In The Rye』の英語の難易度/レベルは「下の上」か「中の下」だと思います。
基本的にはシンプルな単語と文章が中心なので、とても読みやすい部類に入ると思います。
少しだけ補足すると、主人公ホールデンが多用するスラングはさすがに辞書を引かないと理解できないので、ここは難しく感じるかもしれません。
でも、安心してください。これらのスラングは何度も出てくるので、自然に慣れて行きます。
以下にスラング10選と主人公の口ぐせ9選を整理したので、こちらがお役に立てば幸いです。
スラング10選と使用回数まとめ
- goddam:ガッデム(クソ、チクショウ)(247回)
- damn:クソ、チクショウ(126回)
- Kill:うんざりさせる、台無しにする(64回)
- bastard:嫌なヤツ、ろくでなし、クソ野郎(62回)
- lousy:シラミがたかった、ひどい(50回)
- dough:現金、現なま(49回)
- phony:インチキ、偽物、ウソ(50回)(※phonies, phoniestも含む)
- for chrissakes:クソッ!(32回)
- crap:クソ、クズ、ウソ(27回)
- moron:バカ、マヌケ(24回)
※回数はキンドル内検索でヒットした数。
くれぐれも、現実世界で使わないように(笑)
主人公ホールデンの口ぐせ9選
- and all(397回):文末にやたらと付けてくる
- hell(281回): いちいちhell言い過ぎ
- really(228回): No.3だけど、これが一番ホールデンっぽい
- boy(160回):村上春樹の「やれやれ」に相当
- kill(64回):○○す以外の意味=死ぬほどうんざりさせる、まいらせる
- hate(61回):思春期の少年、気に入らないもの多すぎw
- if you want to know the truth(22回):これもやたらと付け加えてきます
- admit(16回):ホールデンは都合の悪いこともしっかり認めるいいやつです
- old(不明:toldなどもヒットしてしまうため):長く付き合いがある、愛着を込めた表現
※回数はキンドル内検索でヒットした数。
こちらは簡単な解説を用意しました。
1. and all:文末にやたらと付けてくる
- 頻度:397回
- 例:I’d just be the catcher in the rye and all.
- 訳:僕はライ麦畑のキャッチャー(的なナンヤカンヤ)になりたい。
- and allは上手く訳せないのですが「関連するもの全てを含む的な雑な言い方」のニュアンスで、私は解釈しました。
2. hell: いちいちhell言い過ぎ
- 頻度:281回
- 例: I didn’t know what the hell to say.
- 訳:いったい何て言えばいいかわからなかった。
- 教科書的には驚きや怒りを表す「いったい」という意味ですが、ホールデンはイキがって言ってるだけで、実際はそこまで驚いたり怒ったりしてないと思います。
3. really: これが一番ホールデンっぽい
- 頻度:228回
- 例:I got excited as hell thinking about it. I really did.
- 訳:それを考えると本当に興奮した。本当に。
- 最後の「I really did」が上手く和訳できないのですが、直前の文を短縮して繰り返す「S really V」という形式は典型的な口癖で、これが一番ホールデンっぽいと言っても過言ではないかもしれません、なぜならホールデンの口癖を真似したネット上の書き込みはだいたいこれだからです。
4. boy:村上春樹の「やれやれ」
- 頻度:160回(注:ホールデンを指して「少年」の意味で使われている場面も混在)
- 例:Boy, his bed was like a rock.
- 訳:やれやれ、彼のベッドは岩のように硬かった。
5. kill:○○す以外の意味=死ぬほどうんざりさせる、まいらせる(ポジ・ネガ、2パターンの意味あり)
- 頻度:64回
- 例:He kept telling her she had aristocratic hands. That killed me.
- 訳:彼はずっと彼女に高貴な手だと言い続けていた。これには死ぬほどうんざりした(ネガティブ)。
- 例:She put them in the drawer of the night table. She kills me.
- 訳:フィービーはナイトテーブルの引き出しに(ホールデンがプレゼントとして買ったけどバラバラに割れてしまったレコードの)かけらをしまった。彼女にはやられたよ(ポジティブ)。
6. hate:思春期の少年、気に入らないもの多すぎw
- 頻度:61回
- 例:Grand. There’s a word I really hate. It’s a phony. I could puke every time I hear it.
- 訳:立派な。僕が本当に嫌いな単語だ。grandなんてインチキだ。それを聞くたびに吐き気がする。
7. if you want to know the truth:これもやたらと付け加えてきます
- 頻度:22回
- 例:I’m a pacifist, if you want to know the truth.
- 訳:僕は平和主義者だ、本当のことを言うと。
8. admit:ホールデンは都合の悪いこともしっかり認めるいいやつです
- 頻度:16回
- 例:I was pretty nervous. I admit it.
- 訳:僕はとても緊張していた。それは認める。
9. old:長く付き合いがある的な意味の、愛着を込めた表現
- 頻度:不明(toldなどもヒットしてしまうため)
- 例:I said to old Phoebe
- 訳:僕はオールド・フィービーに言った。
- 関連:『グレート・ギャツビー』で頻出する「old sport = 親友」のoldと同じ使い方
『The Catcher In The Rye』は文体が魅力
『The Catcher In The Rye』は文体が独特で、とにかく文体に魅力があります。
英語の文体までは考えたことがないという人もいるかもしれませんが、『The Catcher In The Rye』はそんな方にこそおすすめ。
文体の個性が突出しているので、英語でも文体を感じられると思います。
本作の文体(=主人公ホールデン・コールフィールドの目線で語られる、一人称の口語体)を読めば、きっと他の英文とは一線を画す、唯一無二の世界観が感じられるはずです。
この記事は以上です。最後までお読みくださりありがとうございました!
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