プロジェクト・ヘイル・メアリー:あらすじ・原書で読んだ感想・考察 アンディ・ウィアー

プロジェクト・ヘイル・メアリー:あらすじ・原書で読んだ感想・考察 アンディ・ウィアー アメリカ

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』とは?

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、アメリカの小説家アンディ・ウィアーさんが2021年に発表したSF小説です。

アンディ・ウィアーさんは『火星の人(映画オデッセイ原作)』のキンドル自費出版からスター作家になり、2作目の『アルテミス』、3作目の『プロジェクト・ヘイル・メアリー』とヒット作を連発しています。

本作は地球人を含む宇宙人同士のバディものとなっており、良い意味で「アメリカ的」と言って語弊ないと思います。

2人の宇宙人が困難に立ち向い、落ち込んだり、励ましあったり、自分を犠牲にしてでも相手を助けあったりで、感動不可避です。

Hail Maryとはラテン語のAve Maria、聖母マリア様へのお祈りの言葉。転じてアメフトの試合終了間際に負けている側が一発逆転を狙うロングパス。つまり「プロジェクト一発大逆転」という意味。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のあらすじ

主人公のライランド・グレースは元科学者、現中学校の科学教師です。目覚めると記憶が失われていましたが、科学の知識は残っていました。彼は科学の知識を用い、ここが宇宙であることを解明します。そして自分が宇宙船ヘイル・メアリー号に乗っていて、地球を救うためのミッションを担っていることを徐々に思い出していきます。

太陽系は未知の生命体アストロファージに感染し、このアストロファージが太陽エネルギーを食べてしまうことで、地球は寒冷化による滅亡の危機に瀕していました。

宇宙では他の恒星系もアストロファージに感染していましたが、地球から約12光年離れているタウ・セチという恒星(太陽)は例外的に感染していないことが判明。グレースはアストロファージ問題の解決策を求めて、地球代表としてタウ・セチに送り込まれていたのでした。

グレースは、タウ・セチ系で異星人のロッキーと出会い、彼の母星エリドも同じ問題を抱えていることを知ります。二人は科学という共通言語を通じて交流し、アストロファージの謎を解き明かすために協力。地球とエリドの両方を救うために、あらゆる困難に立ち向かっていきます。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の感想・考察

Let’s save planets!

Let’s save planets!

異星人ロッキーのこの台詞がplanet+sで複数形になってるところにグッときました。

このsから、自分の惑星だけじゃなく、相手の惑星のことも思いやってることが伝わってきたためです。

英語を学習し始めた頃は、単数形か複数形かはあまり意識しておらず、仮に間違えていても伝わるっしょ、そんな細かいこと大したことじゃないっしょ、と思っていましたが、最近は単複の違いの重要性を理解するとともに、英語という言語の便利さに感動もするようになりました。

単数形か、複数形か、この2択を正しく使うことで、相手に伝えられる情報の質がグッと上がるからです。

Anna Karenina
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ちなみに、アンナ・カレーニナの有名な書き出しの英訳も、この単複の違いを上手く使い分けることで名文となっていると思います。

Happy families are all alike. Every unhappy family is unhappy in its own way.

幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである。

幸せはみんなナカーマの複数形、不幸はそれぞれで単数形。単複の違いでこれを表現できる点は、英語の便利なところだと思います。

ちなみに、英語の不便だと思うところは「以上/以下」の言い方です。

  • 以上:greater than or equal to ~
  • 以下:less than or equal to ~

日本語だと以上も以下も二文字で楽に言えますが、英語だといちいち5単語も言わなければいけないのが面倒くさいです(笑)

宇宙人は絶対にいる

宇宙人は絶対にいる。この広い宇宙に生命が地球にしかいないなんて確率的にあり得ない。ただ宇宙が広すぎて、お互いの距離が遠すぎて、まだ出会えていないだけ。

シャーロック・ホームズのthe Balance of Probability(確率のバランス)的に、この結論にしかなり得ない。シャーロックも同意してくれると思います。

宇宙人と交流するときのマニュアル

Rocky and I are astronauts. If we’re going to talk, we’re going to talk science.

ロッキーと私は宇宙飛行士だ。もし私たちが話すなら、科学について話すことになる。

英語は地球最強の言語ですが、宇宙では全く役に立たないですよね。宇宙の共通言語は科学なわけで、科学の宇宙的普遍性を介して人間と宇宙人が相互理解して行く過程になるほどと思わされました。

また、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、宇宙人と交流するときのマニュアルとして、人類の宝に勝手に認定したいと思いました(笑)

具体的には、相手が生存できる温度、気圧、空気組成や、相手にとっての可視光の範囲など、お互いに丁寧に確認しながら交流していく様が、科学的に正しい態度であると同時に、相手への思いやりも含んでいて、とても素晴らしかったです。

中国SF『三体』との違い

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『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、ここ最近で大ヒットした中国SF『三体』と同じく地球滅亡の危機という共通点があると思います。

ですが『プロジェクト・ヘイル・メアリー』には『三体』のような絶望感は感じませんでした。

それ以上に宇宙や宇宙人への興味が勝り、主人公が興奮していて、私も楽しい気分になれました。

宇宙人がいい人で人間と仲良くなっていく過程に感動です。私も宇宙人と友達になりたい(笑)

表紙のデザインは何を表しているのか?

プロジェクトヘイルメアリー_表紙のデザインは何を表しているのか?

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』洋書版の表紙が何を表しているのか、英語圏の読者の間でも様々なコメントがあり、確定的な答えは出ていないようです。

英語圏のコメントを見ていると、候補としては以下の3つがあるみたいで、確かに私もその3つは候補になるとは思うものの、いずれも違うと考えています。

Blip-A

The ship’s hull is a mottled gray and tan. The pattern seems random and smooth, like someone started mixing paint but stopped way too early.

宇宙船の外皮はまだらの灰色と黄褐色。模様はランダムかつスムースで、まるで誰かが色を混ぜて早く止めすぎたよう見見える。

Blip-Aは宇宙人ロッキーの宇宙船のことですが、その描写は上記のとおりです。

まず、表紙の絵に「まだら模様」も「灰色」もないことからBlip-Aではないと思われます。

「ランダム」、「スムース」、「色を混ぜて早く止めすぎた」は合っているようにも見えますが、「黄褐色」はどうでしょう。表紙は金色に見えるので「黄褐色」は違うように思います。

以上、一部でも描写が一致していないことから、Blip-Aではないと思われます。

さらに言うと、作中で、グレースがテザー(安全紐)を付けて宇宙空間に出る場面では、Blip-Aの方へ向かっていたはずであり、表紙はテザーの出どころ(つまりヘイルメアリー号)の方向を向いていることからも、Blip-Aではないと思われます。

Adrian

Adrian is a pale-green planet with wispy white clouds in the upper atmosphere.

エイドリアンは淡緑色の惑星で、大気の上層部にうっすらとした白い雲がある。

「エイドリアン」は「Tau Ceti e」という惑星のことで(ロッキーが名付けた)、その描写は上記のとおりです。

このとおり、表紙の絵とは全然違うのでエイドリアンも却下です。

Tau Ceti (the Sun)

表紙の金色部分が太陽(この場合はTau Cetiのこと)、黒色部分がアストロファージを表しているのではという意見もありますが、そもそもTau Cetiはアストロファージに感染していないので(だからグレースとロッキーがその理由を解明しようとここに来ている)、違うと思われます。

では表紙は何を表しているのか?この状況からは以下の2つの可能性が考えられると思います。

  1. 表紙担当者は作品を十分に読み込んでいない
  2. あえて意図的に作中にない場面を描いた

シャーロック・ホームズの「the Balance of Probability(確率のバランス)」的に、私は1だと思います。

人間は間違える生き物ですし、2だったとしてその意図やメリットが想像できないですし、

英語だから正しい、アメリカだから正しい、海外だから正しいということもないからです。

SushiGPT
SushiGPT
私は10年以上グローバル企業に勤めて海外の人と一緒に仕事をして、彼らがミスをする場面を何度も見てきました(もちろん私もミスをします)。このことから、外国人も普通にミスをする、人間は間違える生き物である、という認識を自然と持つようになりました。

英語のオーディブル版がすばらしい!

Project Hail Mary
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“♩♫♪♪♫,” says Rocky.

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の洋書オーディブル版が素晴らしかったです。

上記引用は和音で話す宇宙人の台詞です。オーディブルはこれをどう表現するのか?私はここで脳汁が出ました。

朗読者さんはただ読めばいいわけではなく、作品を理解したり、複数の登場人物を演じ分ける必要がありますし、宇宙人の声には人間の声以外が必要になりますよね。これらはたぶん関係者みなさんのチームプレー(じゃないとできない)。それを想像すると胸熱です。

洋書オーディブル版は100万冊以上売れ、2022 Audie Awards’ Audiobook of the Yearを受賞し、New York Times Audio Best Sellerでも一位になったようで、その評判にも納得です。

英語の難易度としては上級かもしれませんが、ご興味ある方はぜひ。上記引用部分「♩♫♪♪♫」は10章にあるので、英語はわからなくてもオーディブルの無料体験でそこだけでも聴いてみるのも楽しいかもしれません!

その他

亜光速(光速の約9割)を架空の微生物で実現したアイデアがブラボ-!

数々の謎に対して、科学的に実験、検証、推測して解明して行くスタイルも印象的。物理、化学、生物の全てをカバーしていてバランスもよし。この作者は科学のことが大好きなのだなと伝わってきました。

The Beatlesの各メンバーの名前や、『Get Back』『A Hard Day’s Night』が作品に登場してくるところも、The Beatles好きとしては嬉しポイントです。

あとは、宇宙人も謙遜したり、冗談や皮肉を言ったり、お互いに文化の違いは強制的に尊重せざるを得ないっていう暗黙の了解も好きな設定でした。

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