コレラの時代の愛:あらすじ・感想・考察 ガルシア=マルケス

ガルシア=マルケス『コレラの時代の愛』のあらすじ・感想・考察 コロンビア

『コレラの時代の愛』とは?

『コレラの時代の愛』はコロンビアの小説家ガルシア=マルケスさんが1985年に発表した長編小説です。

ガルシア=マルケスさんと言えば『百年の孤独』(1967年)や『族長の秋』(1975年)に代表されるマジック・リアリズムの作品が有名ですが、

本作『コレラの時代の愛』は写実的で、時系列もほぼ線形で、前述の難解な作品とは全くタイプの異なる、読みやすい作品だと思います。

本作の最後の数行は特に素晴らしく、同じく最後の数行が有名な『グレート・ギャツビー』や『アレクサンドリア四重奏』に匹敵すると思います。

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『コレラの時代の愛』のあらすじ

本作はカリブ海の港町を舞台に、フロレンティーノ・アリサ(主人公)、フェルミナ・ダーサ(ヒロイン)、フベナル・ウルビーノ(ライバル)という3人の主要キャラクターを中心に展開します。

物語はまず現在から始まります。冒頭でフベナル・ウルビーノが事故死し、フェルミナ・ダーサは未亡人となります。そして彼女の前に、このときを51年9ヶ月と4日待ち続けていたフロレンティーノ・アリサが現れます。ここで物語は過去へ遡り、そこから時系列に現在へと戻ってきます。

フロレンティーノ・アリサとフェルミナ・ダーサは若き日に深く愛し合った中でしたが、彼女の父親に反対されるなどし、最終的にはフェルミナ・ダーサに心変わりがあり、フロレンティーノ・アリサは振られます。

フェルミナ・ダーサはコレラの撲滅に多大な貢献をした国民的英雄の医師フベナル・ウルビーノと結婚。約半世紀にわたる結婚生活には良いときも悪いときも色々ありましたが、2人は人生を共に歩み絆を深めます。

一方、フロレンティーノ・アリサは一貫してフェルミナ・ダーサを想い続けながらも、その間に622人の女性と性的な関係を持ちます。

そしてフベナル・ウルビーノの事故死をきっかけに、フロレンティーノ・アリサとフェルミナ・ダーサが再会。半世紀以上想い続けたフロレンティーノ・アリサの愛はどうなるのか?

『コレラの時代の愛』の感想・考察

全体の感想

コレラの様な恋を患い初恋の女性を51年9ヶ月と4日待ち続けた男(フロレンティーノ・アリサ)、疫病のコレラを駆逐する男(フベナル・ウルビーノ)、両者と関係をもつ女(フェルミナ・ダーサ)。

全員完璧な人間ではないけど全員良かったと思います。平凡な1日が積み重なりいつの間にか偉大になって行く様に感動しました。

また、本作はコレラの使い方と最後での伏線回収が凄く良かったです。

特に最後の数行は『グレート・ギャツビー』や『アレクサンドリア四重奏』にも匹敵し、鬼神をも感ぜしむレベルだったと思います。

ガルシア=マルケスさん凄い、これがあるから読書は止められない、と思わせてくれる素晴らしい読書体験になりました。

スペイン語の『Colera(コレラ)』の意味

ガルシア=マルケス『コレラの時代の愛』スペイン語のColeraは英語のAnger

スペイン語の『Colera(コレラ)』は、疫病の『コレラ』の他に、英語で言う『Anger(怒り)』の意味があるようです。

また、『コレラの時代の愛』の英語版Wikipediaによると、『Colera(コレラ)』は『Anger(怒り)』の他に『Passion(情熱)』とも解釈できるようです。

『コレラの時代の愛』を解読していくにあたり、「コレラ」を疫病としてだけでなく、「情熱」と読み換えることは有用かもしれません。

「怒り」の可能性は文脈的に排除できると思います。

「コレラ」の使い方が上手い!

フロレンティーノ・アリサはコレラの様な恋の病に罹ります。

一方、フベナル・ウルビーノはチェスにのめり込み、コレラ撲滅にも没頭します。

これは、前者は情熱の担当、後者は論理(または理性)の担当と考えられないでしょうか?

また、コレラはそもそも疫病ですから「隔離」がつきものです。

本作の最後で、フロレンティーノ・アリサとフェルミナ・ダーサが愛の航海に出航したとき、船内は「隔離」状態にあるわけで、それが明らかになったときは、けっこうな衝撃でした。

半世紀以上の愛

『コレラの時代の愛』の紹介でよく使われる「初恋の女性を51年9ヶ月と4日待ち続けた男の壮大な愛」は、ここだけ見るとすごいですけど、実際に本作を読んでみると、そうでもなかったかなと思います。

フロレンティーノ・アリサは約半世紀の間に、622人の女性とセックスをしますし、やっと初恋の人と再会できたと思ったら「貴方の為に童貞を守り抜いた」と嘘をつきます。これでは話が全然違ってきますよね。

一方、我慢や喧嘩、夫側に一度の浮気はあったけれど、約半世紀を共にしたフベナル・ウルビーノとフェルミナ・ダーサ夫婦の方に、私は凄みを感じました(浮気をされた側の女性目線ではまた違う意見かもしれませんが)。

これらを踏まえると、結婚においては「情熱」よりも「理性」の方が重要なのかなと思えてきます。

あとは、作中でも言及がありますが、夫が死んで喜ぶ妻が多いようで、結婚って難しいんだなと。

これは結婚を「愛」や「情熱」と結び付けて考えがちなことが原因なのでしょうか?もし最初から結婚に重要なのは「理性」と思っていたら、結果も変わってくるかも?

最高の終わり方

ほぼネタバレで恐縮ですが、『コレラの時代の愛』は、最後の終わり方が最高に素晴らしかったと思います。ざっくり要約すると、

Question:愛の航海はいつまで?
Answer:Forever

この「Forever」はただの一言ではなく、半世紀分の重みが込められているわけで、この件には本当に衝撃を受けました。

個人的に、最後の数行が有名な『グレート・ギャツビー』や『アレクサンドリア四重奏』に匹敵する終わり方だと思います。

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最後の翻訳は名訳?越権行為?

上記のとおり、『コレラの時代の愛』は最高の終わり方になっていると思いますが、翻訳については気になることがありました。

スペイン語原文はわからないですが、私が読んだ(オーディブルで聴いた)英語版は、「Forever」の一言で終わっています。

一方、本作の日本語版レビューを見てみると、「Forever」に対応する日本語は「命の続く限りだ」となっているようです。

「命の続く限りだ」はいわゆる意訳というものだと思います。個人的には、この意訳はすばらしく、「Forever」の一言よりも良いとさえ思います。

その一方で、翻訳者の権限はどこまであるのか?ということが気になりました。

「Forever」を素直に翻訳するなら「永遠にだ」となるはずで、「命の続く限りだ」はけっこうな変更だと思います。

作者の合意を得ているなら問題ないと思いますが、もしそうでないなら、これは越権行為なのでは?という点が個人的には気になりました。

もちろん、日本語版が直訳で、英語版が意訳の可能性もあります。

念のため、これは批判ではなく、純粋な疑問です。翻訳者の権限はどこまであるものなのでしょうか?

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