源氏物語全54帖の絵・あらすじ・和歌まとめ(オーディブル、現代語訳、源氏物語絵巻)

源氏物語 デジタル絵巻 あらすじ 和歌 日本

源氏物語は、日本文学史上だけでなく、世界文学史上においても重要な作品として知られています。

この記事は、その源氏物語の全54帖を、下記3点で整理したものです。

  • あらすじ(140字以内)
  • 和歌一首(現代語訳)

自分で言うのもなんですが、この記事を作ってみて、とても感動しました。源氏物語という壮大な物語が

  • 絵で視覚化されることでイメージしやすくなり、
  • あらすじで物語の流れがわかり、
  • 和歌で登場人物の感情を感じられる。

特に、スマホでスクロールしていると、源氏物語絵巻のデジタル版のようで、この壮大な物語が掌のうえで流れていく様は圧巻です(私は作業をしただけで、すごいのは紫式部さん)。

この記事が、源氏物語を未読の方にとっては興味をもって全文にトライするきっかけになれれば幸いですし、既読の方にとっては改めて源氏物語のすばらしさを思い出すきっかけになれれば幸いです。

サイドバーの目次もご利用ください(右下)。

源氏物語とは?

世界初の偉大な長編小説

源氏物語_全54帖 与謝野晶子訳

源氏物語は日本のみならず世界文学史上においても初の偉大な長編小説です。

書かれたのは平安時代中期で、文献初出は1008年。

全54帖からなり、全三部作説と全四部作説があるようですが、この記事ではより一般的な全三部作説を採用します。

補足

帖(じょう):折本(おりほん、折り畳む形式の本)の単位

作者は紫式部

源氏物語_紫式部

作者の紫式部さんは973年~1031年を生きた人とされています。

結婚3年後に夫を亡くし、その悲しみを癒すために源氏物語を書き始めたそうです。それが評判になり、藤原道長さんの長女かつ中宮の藤原彰子さんの家庭教師になります。

補足

藤原道長:当時の絶対的権力者「この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたることのなしと思へば」の和歌で有名

中宮:天皇の妻

源氏物語は日本のソースコード

かな(仮名)

源氏物語が書かれた時代、正当な文学は漢詩で、漢字は男性の文字とされていました。

一方、男性が使う漢字(真名)に対して、女性の文字はかな(仮名)。

皮肉なことに、この女性への差別がイノベーションへと繋がります。男性は中国文化に染まっていましたが、女性である紫式部さんにその縛りはありません。

紫式部さんがかなで源氏物語を書いたことで、日本は文化的な独立を果たします。

和歌

また、源氏物語は約800の和歌を含み、登場人物達は和歌で感情を伝えあいます。

和歌は生々しい感情がエチケットと出会う場所であり、読者の心に強い印象を残します。

この和歌もかなで書かれたもので、多くはもののあはれを表現したものでした。

日本のソースコード

以降、この源氏物語が広く普及し長く読み継がれることで、「かな」と「もののあはれ」は日本のソースコードとなりました。

(と私は思っています、個人の感想ですw)。

源氏物語の感想

率直に面白かったです。紫式部さん天才。

今ほど経験値のない千年前にこれを書いたのが凄いし、源氏がお亡くなりになった後もちゃんと面白いのは強いと思います。

全体を統一する世界観には「もののあはれ」を感じました。

「もののあはれ」とは、江戸時代の国学者・本居宣長によると「四季に移ろいゆく風情や男女や親子・友などの間の情愛や離別、哀惜などによって生じる、しみじみとした情緒や気分をあらわす言葉」。

「もののあはれ」は人生の充実度や生活の質とも直結しているように思います。

また、自分がイメージする日本らしさは、この「もののあはれ」だとも思いました。

日本のソースコードは「もののあはれ」説あると思います。

オーディブルがおすすめ

源氏物語は超大長編なので、オーディブルで聴くのがおすすめです。紙の本だと全10巻で、これを読むのは読書ガチ勢の私でも正直辛いです。

オーディブルだと、家事をしながらはもちろん、徒歩・バス・電車などの移動中、夜部屋の電気を消して眠りにつくまでの間など、様々な時間が読書(聴書)に使えておすすめです。

↓の与謝野晶子訳はオーディブルの聴き放題対象なので、オーディブル会員は無料で、オーディブル非会員の方は30日間の無料体験で聴くことができます(購入すると10,000円の商品)。全54帖なので、1日2帖ペースで聴けば、30日以内に完走できます。

(朗読のオリジナルスピード1.0倍はかなり遅いので、1.5倍速など自分の聴きやすい速度に調節するのも全然ありだと思います)

源氏物語の知っておきたい前提知識

源氏物語_六条院

六条院の模型

  • 帝(みかど):天皇
  • 皇后(こうごう)、中宮(ちゅうぐう):帝の正妻、同格
  • 女御(にょうご、にょご):帝と寝る後宮の女官
  • 更衣(こうい):女御に次ぐ地位
  • 東宮(とうぐう):皇太子
  • 斎宮(さいぐう):天皇の代わりに伊勢神宮の神様に仕える未婚の皇女
  • 二条院:源氏の前半生(第一部)の家
  • 六条院:源氏の後半生(第二部)の家(紫夫人、明石御方、花散里など、最重要女性達が住む)
  • 二条東院:源氏が関係を持ったその他の女性達が住む家

源氏物語全54帖の絵・あらすじ・和歌

第一部

概要と主な登場人物

概要

光源氏の前半生。源氏は多くの女性たちと恋愛をして、宮廷内で次々と出世。栄華の絶頂を極めます。

主な登場人物

  • 桐壺帝(きりつぼてい):桐壺更衣を寵愛した天皇
  • 桐壺更衣(きりつぼのこうい):桐壺帝の第二皇子(光源氏)を産む
  • 光源氏(ひかるげんじ):源氏物語の主人公
  • 弘徽殿女御(こきでんのにょうご):桐壺帝の第一皇子(後の朱雀帝)を産む、帝に寵愛される藤壺女御に嫉妬し敵視する
  • 藤壺女御(ふじつぼのにょうご):桐壺帝の中宮、桐壺にそっくりな源氏の初恋、後の冷泉帝を産む
  • 葵の上(あおいのうえ):源氏の初めての正妻
  • 紫の上(むらさきのうえ):源氏の正妻かつ最愛の人
  • 花散里(はなちるさと):源氏の愛人の一人
  • 明石御方(あかしのおんかた):源氏の明石時代の愛人、明石の君(あかしのきみ)、明石の上(あかしのうえ)とも
  • 明石尼君(あかしのあまぎみ):明石御方の母
  • 明石姫君(あかしのひめぎみ):源氏と明石御方の娘、後に今上帝の中宮になる、明石中宮(あかしのちゅうぐう)
  • 梅壺女御(うめつぼのにょうご):源氏が後見している前斎宮、後に冷泉帝の中宮になる、秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)
  • 頭中将(とうのちゅうじょう):最初は源氏の義兄かつ親友を指すが、昇進の度に呼び名が新しい官職名に変わっていく
  • 柏木(かしわぎ):頭中将の長男
  • 夕霧(ゆうぎり):源氏の長男、母は葵の上、柏木の親友
  • 冷泉帝(れいぜいてい):桐壺帝と藤壺女御の男子(実父は源氏)、梅壺女御を寵愛
  • 朱雀帝(すざくてい):桐壺帝と弘徽殿女御の第一皇子、朧月夜を寵愛

第1帖 桐壺 ~ 第11帖 花散里

第1帖 桐壺(きりつぼ)源氏誕生-12歳

源氏物語_第1帖_桐壺 きりつぼ

あらすじ

どの帝の時代だったか、桐壺更衣という女性が帝の寵愛を受け美形の男子(源氏)を産む。しかし桐壺更衣は嫉妬した他の女性達に虐められ病んで死んでしまう。源氏(光の君)は母にそっくりだという藤壺女御(輝く日の宮)に恋をするが、葵の上と政略結婚させられてしまう。

和歌 + 現代語訳

桐壺→帝:限りとて別るる道の悲しきにいかまほしきは命なりけり

(私の命は)これ限り(帝との)別れの道(を行くのが)悲しい(私が)行きたいのは命(の道=生きる道)でした

第2帖 帚木(ははきぎ)源氏17歳夏

源氏物語_第2帖_帚木 ははきぎ

あらすじ

男性達が女性を上流、中流、下流の階級に分けて、どんな女性が良いか語り合う(雨夜の品定め)中流に良い女性が潜んでいる。源氏は聞き役。源氏は中流の女性の空蝉(うつせみ)に恋をし一夜を共にするが、空蝉は人妻なのでそれ以降は会いたくても拒否される。

和歌 + 現代語訳

源氏→空蝉:帚木の心を知らで園原の道にあやなくまどひぬるかな

(近づくと消える)箒木の(様なあなたの)心を知らず園原の道に空しく迷ってしまった

補足

※箒木:遠くからは在るように見えるが近づくと見えなくなる箒に似た伝説の木。会いたくても会えない女性の象徴。

第3帖 空蝉(うつせみ)源氏17歳夏

源氏物語_第3帖_空蝉 うつせみ

あらすじ

源氏は空蝉を諦めきれず再訪。碁を打つ空蝉を覗き見て、美人ではないが嗜み深く魅力的な女性だと再認識する。源氏に気付いた空蝉は薄衣一枚を残して逃げる。源氏は抜け殻の薄衣を持ち帰り手紙で歌を送る。空蝉は源氏に応えられない悲しさを手紙の端で歌にする。

和歌 + 現代語訳

源氏→空蝉:空蝉の身をかへてける木のもとになほ人がらのなつかしきかな

空蝉が身を変えて去った(蝉の抜け殻が残る)木のもとに(立ち)なおその人柄を懐かしく思う

第4帖 夕顔(ゆうがお)源氏17歳秋-冬

源氏物語_第4帖_夕顔 ゆうがお

あらすじ

源氏が貧しい家の垣根に咲く夕顔の花を従者に採りに行かせると、住人の女性が和歌で返答する。源氏はその風流に好感を持ち彼女(夕顔)に恋をする。しかし逢引きの場所にした某院での深夜に女性の霊が出て夕顔が死んでしまう。夕顔も中流の女性。

和歌 + 現代語訳

夕顔→源氏:心あてにそれかとぞ見る白露の光添へたる夕顔の花

推測ですが光源氏様かと存じます、白露の光(源氏の放つ光)に照らされた夕顔の花(私のこと?)はいつも以上に美しく見えます

第5帖 若紫(わかむらさき)源氏18歳

源氏物語_第5帖_若紫 わかむらさき

あらすじ

源氏が病の治療で北山に行くと恋しい藤壺似の少女(10才、後の紫の上)が雀が逃げて悲しんでいる。源氏は少女の後見(と後の結婚)を申し出るが年齢差から尼君(少女の祖母)に断られる。しかし尼君の死後に実現し少女を自分好みの女性に育てようとする。

和歌 + 現代語訳

若紫→源氏:かこつべき故を知らねばおぼつかないかなる草のゆかりなるらん

あなたが嘆く理由を知らない(私は)どんな縁のある草なのか?

補足

※草=紫草=藤色=藤壺
※若紫は藤壺の姪

第6帖 末摘花(すえつむはな)源氏18歳春-19歳春

源氏物語_第6帖_末摘花 すえつむはな

あらすじ

皇族の姫君が孤児になり貧しく暮らしていると聞いた源氏は彼女が気になり手紙を沢山送る。しかし内気な彼女は全然返事をしてくれず悔しい。やっと見れた顔は鼻が赤い不美人だった(和歌も下手)。しかし源氏は彼女を憐れみ生活を援助する。

和歌 + 現代語訳

源氏:なつかしき色ともなしに何にこの末摘花を袖に触れけん

懐かしい色でもないのに何故この末摘花と関係を持ってしまったのか

補足

※末摘花(すえつむはな)は紅花(べにばな)の別名。源氏は姫君の赤い鼻にかけて彼女を末摘花と名付けた。

第7帖 紅葉賀(もみじのが)源氏18歳秋-19歳秋

源氏物語_第7帖_紅葉賀 もみじのが

あらすじ

藤壺が妊娠した源氏の子を、帝は自分の子と思っている。バレたら2人は破滅。源氏は藤壺が恋しいが藤壺は源氏と会おうとしない。紅葉賀の催し物のリハーサルで源氏は青海波を舞う。この上なく美しい舞だったが藤壺は罪悪感から楽しめない。藤壺は源氏そっくりの皇子を産む。

和歌 + 現代語訳

源氏→藤壺:物思ふに立ち舞ふべくもあらぬ身の袖うち振りし心知りきや

(あなたへの)物思いのために、とても舞うこともできない身で、袖を打ち振って舞いました、この気持ちを察してくださいましたか?

補足

※紅葉賀:紅葉の頃に催す祝宴
※青海波(せいがいは)の舞:2人で踊る

第8帖 花宴(はなのえん)源氏20歳春

源氏物語_第8帖_花宴 はなのえん

あらすじ

源氏は桜の宴で詩と舞を披露。その夜更けに「朧月夜に似るものぞなき」と詠んでいた女性と扇を交換する。おそらく右大臣の娘だが詳細不明。また会いたい。一月後、右大臣が催す藤花の宴の夜、源氏がカーテン越しに歌を詠むと返歌があった。あの人の声だった。

和歌 + 現代語訳

朧月夜→源氏:心いる方なりませば弓張の月なき空に迷はましやは

本気で想ってくださる人であれば、空に弓張の月がなくても、迷わず(私を)見つけられるでしょう

補足

※あの夜の月をまた見れるかと思って迷い込んでしまいました、と詠んだ源氏への返歌
※弓張月=上弦/下弦の月の別名

第9帖 葵(あおい)源氏22歳-23歳春

源氏物語_第9帖_葵 あおい

あらすじ

帝の交代(桐壺→朱雀)で時代の空気が変わる。物見の場所取りで葵の上(源氏の正妻)と御息所(源氏の恋人)の従者同士が争い後者が敗れる。御息所の悔しさから生霊が生まれ、妊娠中の葵の上に取り憑く。葵の上は男子(夕霧)を産んだ後で死亡。源氏は紫の上と結婚する。

和歌 + 現代語訳

源氏:君なくて塵積もりぬる床なつの露うち払ひいく夜寝ぬらん

君(葵の上)が亡くなって塵の積もる床で露(涙)を(拭い)払って何夜寝たであろうか

補足

※御息所(みやすどころ):天皇に侍(じ)する宮女の敬称。皇子・皇女を産んだ女御・更衣をいう場合が多いが、皇子・皇女のない場合にも、また、広く天皇に寵せられた宮女にもいう。

第10帖 榊 / 賢木(さかき)源氏23歳秋-25歳夏

源氏物語_第10帖_榊 賢木 さかき

あらすじ

御息所は源氏を諦めて(斎宮になった娘と一緒に)伊勢へ下ることに。行かせたくない源氏は御息所に会いに行き、榊の枝を少し折って御簾の下から入れる。源氏と朧月夜の逢瀬が弘徽殿太后(朧月夜の姉、朱雀帝の母、元桐壺帝第一妃、源氏を敵視)にバレてしまう。

和歌 + 現代語訳

源氏→御息所:少女子があたりと思へば榊葉の香をなつかしみとめてこそ折れ

斎宮がいる辺りだと思うと榊葉の香りが慕わしく折ってきました

補足

※斎宮(さいぐう):天皇の代わりに伊勢神宮の神様に仕える未婚の皇女
※榊(さかき):神界と人間界の境の木、鳥居や神棚に供える

第11帖 花散里(はなちるさと)源氏25歳夏

源氏物語_第11帖_花散里 はなちるさと

あらすじ

五月雨の珍しい晴れのとき、源氏は花散里(昔恋したけど最近は稀にしか会っていない)が哀れになり会いに行く。その家でまず姉の麗景殿女御(故桐壺帝の女御、源氏が生活を援助)と話して昔を懐かしみ泣く。次に花散里に会い恋しかった気持ちを伝える

和歌 + 現代語訳

源氏:橘の香をなつかしみほととぎす花散る里を訪ねてぞとふ

橘の香が懐かしく、ほととぎすはこの花の散るお家を訪ねてきました

補足

※麗景殿(れいけいでん)女御と花散里の家には橘の木がある

第12帖 須磨 〜 第21帖 乙女/少女

第12帖 須磨(すま)源氏26歳春-27歳春

源氏物語_第12帖_須磨 すま

あらすじ

朱雀帝の寵愛する朧月夜との逢瀬は完全にアウト。源氏は弘徽殿太后に責められ被害が拡大する前に(特に藤壺との子=東宮[後の冷泉帝]の将来を心配し)紫の上を京に残し須磨へ退去する。源氏は京の人々と手紙を交わしながら寂しい日々を過ごす。須磨を暴風雨が襲う。

和歌 + 現代語訳

源氏→入道の宮(出家した藤壺女御):松島のあまの苫屋もいかならん須磨の浦人しほたるる頃

出家して松島の苫屋にいるあなたはいかがお過ごしでしょうか、私は須磨の浦で涙を流すこの頃です

補足

※苫屋:苫で屋根を葺いた家、苫葺きの粗末な小屋
※葺く(ふく):屋根を覆う

第13帖 明石(あかし)源氏27歳春-28歳秋

源氏物語_第13帖_明石 あかし

あらすじ

源氏は暴風雨が収まるよう神に祈るが須磨邸が落雷で焼失。夢の中で桐壺帝「須磨を離れよ」そこへ神の御告げを受けていた明石の入道が迎えに来る。源氏は明石に移り入道の娘(明石御方)に恋して妊娠させる。朱雀帝は夢の中で桐壺帝に責められ源氏を京に戻すことに。

和歌 + 現代語訳

源氏→明石御方:逢ふまでのかたみに契る中の緒のしらべはことに変はらざらなん

また逢う時までの形見に約束です、琴の絃の調子の様に二人の愛は変わりません

補足

※入道(にゅうどう):仏道に入って修行すること、またはその人のこと、出家した人
※別れの前夜、源氏と明石御方が琴を弾きあってからの和歌。源氏は「この琴の絃の調子が狂わないうちに必ず逢いましょう」と続ける

第14帖 澪標(みおつくし)源氏28歳冬-29歳

源氏物語_第14帖_澪標 みおつくし

あらすじ

朱雀帝から冷泉帝へと譲位。源氏は昇進。明石御方の出産に嫉妬する紫の上に源氏は一層魅力を感じる。明石御方は住吉大社への参詣で豪華な源氏一行を見かけ身分の違いを痛感する。御息所は病で亡くなり娘の斎宮を源氏に託し(ただし愛人にはするな)斎宮は後宮へ入内する。

和歌 + 現代語訳

明石御方→源氏:数ならでなにはのこともかひなきに何みをつくし思ひ初めけん

数に入らない何でもない(身分の低い)私があなたを想っても甲斐がないのになぜ身を尽くして思い始めてしまったのか

第15帖 蓬生(よもぎう)源氏28歳-29歳

源氏物語_第15帖_蓬生 よもぎう

あらすじ

源氏が須磨、明石に行っていた間、放置された恋人達がいた。生活の援助が止まった末摘花は生活に困窮し召使も去った。しかし末摘花は蓬が茂る荒れた邸で源氏を信じて待ち続る。感動した源氏は末摘花への援助を再開し、2年後に東院(源氏のハーレムの1つ)に引き取る。

和歌 + 現代語訳

源氏→末摘花:尋ねてもわれこそ訪はめ道もなく深き蓬のもとの心を

訪ねて行って我こそ問おう、深い蓬で道もなくなるほど埋もれていたあなたの心を

第16帖 関屋(せきや)源氏29歳秋

源氏物語_第16帖_関屋 せきや

あらすじ

常陸での夫の任期が終わり空蝉が帰京することに。石山詣に行く源氏一行と逢坂の関ですれ違うが人目があり言葉も交わせない。その後2人は和歌で想いを伝え合う。やがて夫が老齢からの病で死ぬと空蝉は自身の薄命を悲しむ。空蝉は継子(ままこ)の下心が嫌で出家する。

和歌 + 現代語訳

空蝉→源氏:逢坂の関やいかなる関なれば繁きなげきの中を分くらん

逢う坂の関とは一体どういう関所なのか、(「逢う」という名前なのに)生い茂る木々の中を嘆きながら分けて行かなければならない

補足

※すれ違っただけで逢えなかったという意味

第17帖 絵合(えあわせ)源氏31歳春

源氏物語_第17帖_絵合 えあわせ

あらすじ

梅壺女御(源氏が後見している前斎宮)は絵という共通の趣味で冷泉帝に寵愛される。弘徽殿女御(冷泉帝の妃の方、朱雀帝の母とは別人)も応戦。冷泉帝の前で梅壺方vs弘徽殿方で絵合対決が催される。良い絵が沢山出されたが源氏の須磨時代の絵日記が決め手で梅壺方が勝利する。

和歌 + 現代語訳

源氏→紫の上:うきめ見しそのをりよりは今日はまた過ぎにし方に帰る涙か

辛い思いをしたあの頃よりも今日はいっそう昔を思い涙が流れます

補足

※源氏が絵合対決に出す絵を紫の上と一緒に家で探して、須磨明石時代の絵日記が出てきたときに詠んだ和歌
※絵合(えあわせ):左右に分かれて持ち寄った絵を比べ、その優劣によって勝負を争う遊戯

第18帖 松風(まつかぜ)源氏31歳秋

源氏物語_第18帖_松風 まつかぜ

あらすじ

源氏の二条東院(関係を持った女性達が住む家)が完成。源氏は明石御方を呼びたいが彼女は身分の違いから入京に自信がなく山荘(別荘)に住む。しかし2人の娘は将来を考えると早めに京で育てた方がいい。源氏はその娘を引き取り育てることを紫の上にお願いし承諾される。

和歌 + 現代語訳

明石の尼君(明石御方の母):身を変へて一人帰れる山里に聞きしに似たる松風ぞ吹く

尼姿になり一人帰ってきたこの山里にも(明石の浦で)聞いたことがあるような松風が吹いている

補足

※源氏が中々来ない山荘で明石御方が形見の琴を弾くと松風が合奏しきて、それを聞いた尼君の和歌

第19帖 薄雲(うすぐも)源氏31歳冬-32歳秋

源氏物語_第19帖_薄雲 うすぐも

あらすじ

明石御方は悩んだ末に姫君(娘)を源氏に託すことにして泣きながら見送る。その娘は京の紫の上に大切に育てられる。藤壺が病死し源氏は涙に暮れる。冷泉帝は長く仕えている老僧から秘密(父は桐壺帝ではなく源氏)を知り衝撃を受け、源氏に位を譲ろうとするが断られる。

和歌 + 現代語訳

源氏:入り日さす峰にたなびく薄雲はもの思ふ袖に色やまがへる

入り日が射す峰にたなびく薄雲は(その色を私の)喪服の袖と同じ色に似せているのか

補足

※藤壺の死を悼んでの和歌

第20帖 朝顔(あさがお)源氏32歳秋-冬

源氏物語_第20帖_朝顔 あさがお

あらすじ

桐壺帝の弟(叔父)が死んだので、源氏はずっと好きだったその娘(いとこ)の朝顔に猛アプローチ。悲しむ紫の上を源氏がなだめた後、2人は月夜の下で童女達の雪まろげを眺める。その夜、夢に現れた藤壺は源氏との罪(冷泉帝の父は桐壺帝ではなく源氏であること)に苦しんでいた。

和歌 + 現代語訳

源氏→朝顔:見し折りのつゆ忘られぬ朝顔の花の盛りは過ぎやしぬらん

以前見た時の(あなたが)少しも忘れられません、その朝顔の花は盛りを過ぎてしまったのでしょうか

補足

※雪まろげ:雪を丸めて雪だるまや雪合戦の雪玉を作ったりすること。雪の中で遊ぶ子ども達を表す冬の季語。

第21帖 乙女 / 少女(おとめ)源氏33歳-35歳

源氏物語_第21帖_乙女 少女 おとめ

あらすじ

源氏は元服した夕霧を優遇せず低い地位に止め大学へ行かせる。源氏が後見する梅壺女御が中宮になり、立后争いに敗れ悔しい内大臣(元頭中将)は娘と夕霧の恋を妨害。夕霧は五節の舞姫にも失恋。六条院(源氏の家)が完成し紫の上、花散里、明石御方等が住むことに。

和歌 + 現代語訳

夕霧→五節の舞姫:日かげにもしるかりけめや少女子が天の羽袖にかけし心は

日の光にもはっきりわかったでしょう、あなたの天の羽衣(を翻して舞う姿)に思いをかけた私の心は

補足

※新嘗祭(にいなめのまつり):11/23の宮中祭祀(天皇が国家と国民の安寧と繁栄を祈る祭祀)現在は勤労感謝の日
※五節の舞:新嘗祭の後の饗宴で5人の舞姫が踊る

第22帖 玉鬘 〜 第31帖 真木柱(玉鬘十帖)

第22帖 玉鬘(たまかずら)源氏35歳

源氏物語_第22帖_玉鬘 たまかずら

あらすじ

玉鬘(夕顔と頭中将の娘、4歳のとき乳母一家に連れられ九州へ)は今や妙齢、多くの求婚を受けるが、それらを断り京へ逃げる。途中で右近(元夕顔の、現紫夫人の待女)と再会し、源氏の六条院で花散里と住むことになる。夕顔のことを聞かされた紫夫人は恨めしく思う。

和歌 + 現代語訳

源氏:恋ひわたる身はそれながら玉鬘いかなる筋を尋ね来つらん

ずっと恋い慕っていた(私の)身は同じであるが玉鬘(のようなその娘)はどのような筋でここに来たのだろうか

補足

※玉鬘(たまかずら):古代の装飾品のひとつ、多くの玉を糸に通した髪飾り

第23帖 初音(はつね)源氏36歳正月

源氏物語_第23帖_初音 はつね

あらすじ

元旦の六条院は素晴らしくこの世の極楽の様。源氏はまず紫夫人と和歌を交わし変わらぬ愛を誓う。その後は六条院と二条東院の各女性に挨拶周り。明石の母娘も和歌を交わす(源氏は2人の別居を心苦しく思う)。源氏が明石御方を訪ね新年初日をそこで泊まると他の女性達が嫉妬する。

和歌 + 現代語訳

明石御方→明石の姫君:年月をまつに引かれて経る人に今日鶯の初音聞かせよ

長い年月(あなたを)待っている私に今日(元旦)はあなたの声を聞かせてください

補足

※まつは「待つ」と「松(長寿=長い時間)」

第24帖 胡蝶(こちょう)源氏36歳春-夏

源氏物語_第24帖_胡蝶 こちょう

あらすじ

春、源氏は船楽(音楽、舞踏、和歌などの船上パーティー)を催す。翌日、中宮による読経の日、紫上と中宮が和歌を交わす(ここが胡蝶)。夏、玉鬘は多数の求婚を受ける中、養父の源氏からも言い寄られて困る。源氏の理屈は変態的。玉鬘は他人の目が気になり、境遇を嘆き、体調も崩す。

和歌 + 現代語訳

紫上→中宮:花園の胡蝶をさへや下草に秋まつ虫はうとく見るらん

花園の胡蝶さへも下草で秋を待つ虫(あなた)は疎ましく思うのでしょうか

補足

※中宮は秋が好きでそんな和歌を以前に詠んでいた、秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)

第25帖 蛍(ほたる)源氏36歳夏

源氏物語_第25帖_蛍 ほたる

あらすじ

玉鬘は求婚してくる兵部卿の宮(源氏の弟)へ好意を装うのも源氏から逃れる一つの方法と思う。六条院に招かれた弟の部屋に源氏は蛍を放つ。その光を見て弟は和歌を詠むが玉鬘には響かない。源氏は花散里に小説論を語る。内大臣(元頭中将)は自分の娘(玉鬘)が源氏の養女になっていることを知らない…

和歌 + 現代語訳

玉鬘→ 兵部卿の宮(源氏の弟):声はせで身をのみこがす蛍こそ言ふよりまさる思ひなるらめ

声には出さず身だけを焦がしている螢の方が(あなたのように)言葉にするより深い思いでいるでしょう

第26帖 常夏(とこなつ)源氏36歳夏

源氏物語_第26帖_常夏 とこなつ

あらすじ

源氏は夕霧を訪ねてきた内大臣の子供達と世間話をし、内大臣の新しく見つかった娘(近江の君)を笑う。源氏には夕霧と雲居の雁(内大臣の娘)の恋を許さない内大臣への不満もあった。源氏は玉鬘に和琴のお手本を弾いて聴かせる。玉鬘は和琴の第一の名手である実父(内大臣)にいつ会えるのかと悲しむ。

和歌 + 現代語訳

源氏→玉鬘:なでしこの常なつかしき色を見ばもとの垣根を人や尋ねん

撫子(玉鬘)の常変わらぬ懐かしい色(美しさ)を(実父の内大臣が)見れば、元の垣根(実母夕顔の子のあなた)を実父はきっと尋ねて来てくれるでしょう

第27帖 篝火(かがりび)源氏36歳秋

源氏物語_第27帖_篝火 かがりび

あらすじ

源氏はまだ玉鬘のところへ通っていた。2人での夜更かし中、源氏は庭の消えそうな篝火をさらに燃やさせて和歌を詠む。玉鬘はやはり世間の目が気になり返歌で断る。帰り際、夕霧達の音楽が聴こえたため、彼等を呼び寄せる。柏木(内大臣の子)は玉鬘への恋心を抑えて控えめに和琴を弾く。

和歌 + 現代語訳

源氏→玉鬘:篝火に立ち添ふ恋の煙こそ世には絶えせぬ焔なりけれ

篝火とともに立ち上る恋の煙こそ、この世から消えることのない私の焔(あなたへの想い)なのです

第28帖 野分(のわき)源氏36歳秋

源氏物語_第28帖_野分 のわき

あらすじ

野分(台風)で荒れた六条院で偶然、夕霧は紫夫人を見てその美しさに衝撃を受ける。翌日、源氏と夕霧は各女性のお見舞い周りに行く。夕霧は親子とは思えない源氏と玉鬘のイチャイチャを見てしまい悪寒を覚える。混乱の中、夕霧は雲居の雁に和歌を詠む。

和歌 + 現代語訳

夕霧→雲居の雁(くもいのかり):風騒ぎむら雲迷ふ夕べにも忘るるまなく忘られぬ君

風が騒いでむら雲が乱れる夕べにも、忘れる間もなく忘れられないあなたです

第29帖 行幸(みゆき)源氏36歳冬-37歳春

源氏物語_第29帖_行幸 みゆき

あらすじ

この頃、源氏は玉鬘に宮中での宮仕えを勧めており、玉鬘は冷泉帝の行幸を見物するが答えは出しかねる。源氏は玉鬘の入内の為に裳着の準備を進める。源氏が内大臣に玉鬘のことを話すと、内大臣は喜んで裳着の腰結いを引き受ける。裳着の日、父娘はついに対面を果たす。

和歌 + 現代語訳

玉鬘→源氏:うちきらし朝曇りせしみゆきにはさやかに空の光やは見し

霧がかかった様に朝空一面が曇って雪が降ったので、はっきりとは空の光(帝)を見ることができませんでした

補足

※みゆき:雪と行幸の2つの意味
※行幸(みゆき):天皇の外出
※裳着(もぎ):女子の成人の通過儀礼

第30帖 藤袴(ふじばかま)源氏37歳秋

源氏物語_第30帖_藤袴 ふじばかま

あらすじ

玉鬘は自分の曖昧な立場に思い悩む。夕霧は玉鬘への想いが溢れて藤袴の花を差し出し告白する。源氏は玉鬘を宮仕えさせ(義理の親子ではなくなる)愛人関係を維持しようという目論見が内大臣にバレて薄気味悪くなる。玉鬘の入内が決まった後も求婚の手紙は後を絶たない。

和歌 + 現代語訳

夕霧→玉鬘:おなじ野の露にやつるる藤袴哀れはかけよかごとばかりも

(あなたと)同じ野の露に(濡れて)やつれている藤袴です、やさしい言葉をかけて下さい、ほんの申し訳程度でも

第31帖 真木柱(まきばしら)源氏37歳冬-38歳冬

源氏物語_第31帖_真木柱 まきばしら

あらすじ

右大将は玉鬘と強引に結婚(玉鬘は悲しい)。北の方(右大将の正妻)はブチ切れて、火入れの灰を右大将に浴びせ、子供ともども実家に帰る。真木柱(右大将の娘)は別れの和歌を家の柱の割れ目に残す。帝と源氏は右大将に玉鬘を奪われたことを悔しがる。玉鬘は右大将の男子を産む。

和歌 + 現代語訳

真木柱:今はとて宿借れぬとも馴れ来つる真木の柱はわれを忘るな

今はもうこの家を借りれない(出ていく)けれど馴れ親しんだ真木の柱は私を忘れないで

補足

※帝が「昔の何とかいった男のように、まったく悲観的な気持ちになりますよ。」と言う箇所は、時平に妻を奪われた平貞文の歌「昔せしわがかねごとの悲しきはいかに契りし名残なるらん(昔私たちの交わした誓いが悲しいことになったのは、一体どのように契った結果生じたものなのでしょうか)」のこと。

第32帖 梅枝 〜 第33帖 藤裏葉

第32帖 梅枝(うめがえ)源氏39歳春

源氏物語_第32帖_梅枝 うめがえ

あらすじ

明石の姫君の裳着のために源氏は薫香を調合する。紫夫人等も薫香を作り競い合うことに。裳着の前日、梅枝のついた前斎院からの手紙を弟が持ってくると、源氏も返事に紅梅の枝をつける。薫香はどれもすばらしく優劣は付け難かった。その夜の酒席では梅枝が歌われた。

和歌 + 現代語訳

朝顔(前斎院):花の香は散りにし袖にとまらねどうつらん袖に浅くしまめや

花の香りは散った枝には残りませんが、(香を焚いた姫君の)袖には深く残るでしょう

第33帖 藤裏葉(ふじのうらば)源氏39歳春-冬

源氏物語_第33帖_藤裏葉 ふじのうらば

あらすじ

内大臣は藤の宴に夕霧を招き和解、ずっと反対していた娘(雲居の雁)との結婚を許す。明石の姫君の入内を機に紫夫人と明石御方が初対面、お互いを認め合い友情を交わす。源氏、内大臣、夕霧はみな昇進。冷泉帝は六条院へ行幸、朱雀院も訪れ宴が催される。

和歌 + 現代語訳

内大臣(元頭中将)→夕霧:春日さす藤のうら葉のうちとけて君し思はばわれも頼まん

春の日がさす藤の葉の裏のように(心の裏を見せて)あなたが打ち解けてくれるなら私もあなたを信頼します

補足

※藤の花の見頃は4月下旬から5月上旬。春の花が散った後に少し遅れて咲く。夕霧と雲居の雁の結婚に時間がかかったことと重なる。

第二部

概要と主な登場人物

概要

光源氏の後半生。絶頂期を過ぎて、女性達との関係も崩壊を始めます。源氏は世を儚み、出家を志します。

主な登場人物

  • 夕霧(ゆうぎり):源氏の長男、柏木の親友、女二宮に恋をする
  • 柏木(かしわぎ):大臣(元頭中将、隠居中)の長男、女三宮に恋をする
  • 女二宮(にょにのみや)::朱雀院の第二皇女
  • 女三宮(にょさんのみや):朱雀院の第三皇女、源氏の正妻
  • 今上帝(きんじょうてい):朱雀帝と承香殿女御(説明割愛)の第一皇子、明石中宮(源氏の娘)と結婚

第34帖 若菜 〜 第 41帖 幻

第34帖 若菜(わかな)源氏39歳冬-47歳冬

源氏物語_第34帖_若菜 わかな
※六条院での蹴鞠

若菜 上 源氏39歳冬-41歳春

あらすじ

朱雀院は病で出家、娘(女三宮)を源氏に託す。源氏は断りきれず女三宮を正妻に。紫夫人は動揺するが平静を装う。源氏の40歳を祝い玉鬘が若菜を持ってくる。朱雀院の出家を受け、源氏は朧月夜とよりを戻す。明石の姫君は東宮(後の今上帝)の男子を出産。六条院での蹴鞠に訪れた柏木は女三宮を見て未練を強める。

和歌 + 現代語訳

源氏:小松原末のよはひに引かれてや野辺の若菜も年をつむべき

小松のように若いあなた達の末長い年齢に引かれて野辺の若菜(私)も年を積んでいくでしょう

補足

※朧月夜は朱雀院に愛された女性(源氏は朧月夜と関係を持ったことが原因で須磨に下った過去あり)
※ここが源氏の絶頂期。次から不穏な空気になる

若菜 下 源氏41歳春-47歳冬

あらすじ

冷泉帝から今上帝へ譲位。幸せな人のことを「明石の尼君」という言葉が流行る。女三宮、紫夫人、明石夫人、明石姫君による音楽会が催される。紫夫人は病に倒れ一度死んでから蘇生。柏木は女二宮と結婚するが女三宮を妊娠させ源氏にバレる。柏木は罪悪感から病み実家で療養。朧月夜は尼になる。

和歌 + 現代語訳

紫夫人:消え留まるほどやは経べきたまさかに蓮の露のかかるばかりを

(蓮の葉の上に)露が消えずに残っている間だけでも私は生きられるでしょうか(私の命は)たまたま蓮の露がこうしてあるだけにすぎない

補足

※冷泉帝:源氏と藤壺の子
※今上帝:朱雀帝の第一皇子(母は承香殿女御[右大将の姉妹])正妻は明石の姫君
※女三宮:朱雀院の第三皇女、源氏の正妻
※女二宮:朱雀院の第二皇女
※柏木:大臣(元頭中将、隠居中)の長男

第35帖 柏木(かしわぎ)源氏48歳正月-秋

源氏物語_第35帖_柏木 かしわぎ

あらすじ

女三宮は男子(薫)を産んだ後に出家。今上帝は柏木を元気づけるため昇進させるが病態は改善しない。柏木は見舞いに来た夕霧に源氏とのとりなしを依頼するもやがて死亡。源氏は可愛い薫を抱くと柏木への憎しみも消え涙する。夕霧は未亡人の女二宮に惹かれ和歌を送るが和歌で断られる。

和歌 + 現代語訳

女二宮(落葉の宮):柏木に葉守の神は坐すとも人馴らすべき宿の梢か

柏木に葉守の神はいなくてもみだりに人を近づけてよい梢(こずえ)でしょうか(反語)

第36帖 横笛(よこぶえ)源氏49歳

源氏物語_第36帖_横笛 よこぶえ

あらすじ

夕霧が女二宮を見舞い2人で琵琶と和琴を弾く。一条御息所は柏木の横笛を夕霧に譲る。その夜夕霧の夢に柏木が出て「望みは他にある」。夕霧が源氏に夢の話をすると源氏は横笛は私が持っておくべきと言い預かる。夕霧は柏木と源氏の秘密を察していて真相を知る為に話し出すが源氏にはぐらかされる。

和歌 + 現代語訳

夕霧:横笛の調べはことに変はらぬをむなしくなりし音こそ尽きせね

横笛の音は特に昔と変わりませんが、亡くなったあの人の(吹いた)音はいつまでも伝えられていきます(orあの人を偲ぶ者達の泣き声は尽きません)

第37帖 鈴虫(すずむし)源氏50歳夏-秋

源氏物語_第37帖_鈴虫 すずむし

あらすじ

女三宮が出家。源氏は尼君(女三宮)の庭に虫を放ち、虫の音を口実に訪問、尼君を誘惑して困らせる。秋の十五夜に源氏の弟と夕霧が来て、虫の声の批評をした後に音楽を合奏、鈴虫の宴となる。月見の宴が中止となり退屈していた冷泉院に呼ばれて参上、明け方まで宴を続ける。

和歌 + 現代語訳

源氏→尼君:心もて草の宿りを厭へどもなほ鈴虫の声ぞふりせぬ

自分から出家したあなたですが今なおその声は鈴虫の声のように美しい

補足

※「振る」と「鈴」は縁語

第38帖 夕霧(ゆうぎり)源氏50歳秋-冬

源氏物語_第38帖_夕霧 ゆうぎり

あらすじ

夕霧は女二宮と病人の御息所がいる山荘を、見舞いを口実にして訪れる。夕方の霧を理由に女二宮の所で一泊しようとするが好きさいやよの攻防で夜が明ける。御息所は誤解のあるまま死亡。女二宮は夕霧を恨み遮断。雲居の雁はブチ切れて大臣のいる実家に帰る。女二宮は義父の大臣に責められ涙する。

和歌 + 現代語訳

夕霧:山里の哀れを添ふる夕霧に立ち出でんそらもなきここちして

山里の哀れな気持ちを添える夕霧のために帰る気持ちになれません

補足

※女二宮の亡き夫(柏木)の父が大臣(元頭中将)

第39帖 御法(みのり)源氏51歳

源氏物語_第39帖_御法 みのり

あらすじ

紫夫人はあの大病以後容態が悪く出家したいが源氏は同意しない。春、自ら法要を行い、訪れた明石夫人や花散里夫人と別れを惜しむ。夏、孫の匂宮に庭の紅梅と桜を託す。秋、明石中宮が見舞いに訪れ、源氏も加わり3人で歌を詠み交わした後で息を引き取る。源氏は出家を考える。

和歌 + 現代語訳

紫夫人→花散里夫人:絶えぬべき御法ながらぞ頼まるる世々にと結ぶ中の契りを

私にはこれが最後と思われる法会ですが、信頼します、来世でもあなたとのご縁がありますように

補足

※ 匂宮(におうみや、におうのみや):今上帝と明石中宮の男子

第40帖 幻(まぼろし)源氏52歳の一年間

源氏物語_第40帖_幻 まぼろし

あらすじ

源氏は悲しみで引き籠り、他の女性と関係を持ち紫夫人を苦しめたことを後悔、出家の日を思う。匂宮は紫夫人の遺言を守り庭の紅梅と桜を責任を持って見回る。出家に向けて身辺整理をする源氏は紫夫人の手紙も焼いてしまう。可愛い匂宮を見れる日々もあと僅か。

和歌 + 現代語訳

源氏:大空を通ふまぼろし夢にだに見えこぬ魂の行く方尋ねよ

大空を飛ぶ幻術士よ、夢にさえ来ない(あの人の)魂の行方を探しておくれ

第41帖 雲隠(くもがくれ)

本帖はタイトルだけで本文なし。ここで源氏がお亡くなりになっていることが後の帖からわかる。本文なしは紛失か意図的か?

和歌 + 現代語訳

本帖は和歌もなし。訳者の与謝野晶子さんは全帖に自作の和歌を添えているので、ここではそれを引用します。

与謝野晶子:かきくらす涙か雲かしらねどもひかり見せねばかかぬ一章

悲しみに暮れる涙のせいか(空が)雲っているせいか知らないけれど光(源氏)が姿を見せないのでこの一章は書かない(書けない)

第三部

概要と主な登場人物

概要

光源治が亡くなった後の、子孫たちの物語。主人公は源氏の男子、薫(実父は柏木)。

主な登場人物

  • 薫(かおる):源氏と女三宮の男子(実父は柏木)
  • 匂宮(におうのみや):今上帝の第三皇子、母は明石中宮(源氏の娘)、肩書きは兵部卿宮(ひょうぶきょうのみや)
  • 宇治八の宮(はちのみや):桐壺帝の第八皇子、源氏の異母弟
  • 宇治の大君(おおいきみ):八の宮の長女
  • 宇治の中君(なかのきみ):八の宮の次女
  • 浮舟(うきふね):八の宮の娘、宇治の大君と中君の異母妹
  • 弁(べん):八の宮侍女、柏木の乳母の娘、柏木の秘密を知っている

第42帖 匂宮 〜 第44帖 竹河(匂宮三帖 / 竹河三帖)

第42帖 匂宮(におうのみや)薫14歳-20歳

源氏物語_第42帖_匂宮 におうのみや

あらすじ

源氏がお隠れになった後その美貌を継ぐ者はいなかったが、匂宮と薫が貴公子ツートップになった。源氏の六条院を守るため夕霧が移り住む。薫はどんどん昇進して行くが自身の出生に疑問を持ち厭世感を抱く。薫は生まれつき良い薫りがした。匂宮は競争心から薫香に力を入れる。

和歌 + 現代語訳

薫:おぼつかなたれに問はまし如何にして始めも果ても知らぬわが身ぞ

はっきりしない、誰に問えばよいのか、どうして始めも終わりも知らない我が身なのだろう

第43帖 紅梅(こうばい)薫24歳春

源氏物語_第43帖_紅梅 こうばい

あらすじ

紅梅大納言(柏木の弟)は妻を亡くし真木柱と再婚していた。前妻との娘達への求婚者は多いが、大納言は二女を匂宮と結婚させたく紅梅の枝を添えて和歌を送る。匂宮の本命は真木柱と前夫(亡き源氏弟)の宮の姫君。宮の姫君は陰キャで結婚する気がない。真木柱は匂宮の身分は良いが多情が心配で悩む。

和歌 + 現代語訳

紅梅大納言→匂宮:心ありて風の匂はす園の梅にまづ鶯の訪はずやあるべき

考えがあって風が匂わす園の梅に、すぐに鴬が来なくてよいのでしょうか(来てほしい)

第44帖 竹河(たけかわ)薫14,5歳-23歳

源氏物語_第44帖_竹河 たけかわ
※玉鬘の姫君の侍女たちが坐って桜を見ている

あらすじ

夫を亡くした玉鬘は冷泉院や今上帝から誘いのある二女の将来に煩悶中。長女は薫や蔵人にも恋される。薫は玉鬘邸で長女を想い竹河を歌う。玉鬘は悩んだ果てに長女を冷泉院に送る。長女は冷泉院に寵愛され女子男子を産むが女御達の反感を買う。帝は不機嫌になる。玉鬘は決断が裏目に出て後悔。

和歌 + 現代語訳

薫:流れての頼みむなしき竹河に世はうきものと思ひ知りにき

(時は)流れ竹河(を歌った頃)の希望もなくなりこの世は悲しいものと知りました

補足

※蔵人:夕霧の五男

第45帖 橋姫 〜 第54帖 夢浮橋(宇治十帖)

第45帖 橋姫(はしひめ)薫20歳-22歳

源氏物語_第45帖_橋姫 はしひめ

あらすじ

八の宮は政争に利用され零落、妻も亡くし、2人の娘と宇治の山荘で暮らしていた。薫は僧のような八の宮に惹かれ山荘に通い、やがて長女に恋をする。薫は弁(八の宮の侍女)から柏木と女三宮の手紙を受け取り自身の出生の秘密を知る。薫は母の姿を見ると秘密のことを言う気がなくなり心に止める。

和歌 + 現代語訳

薫→大姫君(八の宮の長女):橋姫の心を汲みて高瀬さす棹の雫に袖ぞ濡れぬる

姫君達の心を察すると浅瀬(を漕ぐ舟)の棹の雫(涙)で袖が濡れてしまいます

補足

※高瀬:川の瀬の浅いところ、浅瀬
※棹:さお
※八の宮:源氏の異母弟、桐壺帝の第八皇子
※弁:柏木の乳母の娘、薫出生の秘密を知っている

第46帖 椎本(しいがもと)薫23歳春-24歳夏

源氏物語_第46帖_椎本 しいがもと

あらすじ

匂宮は宇治の姫君達が気になり、対岸の夕霧の別荘(平等院がモデル)に行く。薫達も加わり碁や双六で遊び音楽も奏でる。八の宮はその音を聴き宮中での日々を懐かしむ。八の宮は姫君達に結婚はせず山荘で生きるよう伝えて死ぬ。薫は長女、匂宮は次女にアプローチするが姫君達のガードは固い。

和歌 + 現代語訳

薫(八の宮亡き後の山荘にて):立ち寄らん蔭と頼みし椎が本むなしき床になりにけるかな

立ち寄るべき蔭とお頼りしていた椎の本は空しい床になってしまった

第47帖 総角(あげまき)薫24歳秋-冬

源氏物語_第47帖_総角 あげまき

あらすじ

八の宮の長女(大君)は薫の求愛に応えず次女(中君)と薫を結婚させようとする。薫は諦めて匂宮を中君に会わせるが、匂宮は立場上自由に宇治には行けない。そこで宇治川で舟遊びや紅葉狩り企てるも人が多すぎて中君の所へは行けず。姫君達は故意の素通りと勘違いして悲しむ。大君は体調を崩して死ぬ。

和歌 + 現代語訳

薫→八の宮の長女:あげまきに長き契りを結びこめ同じところに縒りも合はなん

あなたのあげまき結びに長い契りをこめて一緒に暮らしたい

補足

※縒り:より。糸・縄などをねじって、互いにからみ合わせること。そうした物。

第48帖 早蕨(さわらび)薫25歳春

源氏物語_第48帖_早蕨 さわらび

あらすじ

亡父の阿闍梨から蕨、土筆、手紙が届き中君は感涙、和歌で返信する。匂宮は中君を二条院に迎え入れ結婚。薫は中君の上京をサポートしつつ中君が匂宮のものになるのが惜しい。夕霧は六の君の結婚に薫の意向を伺うが世を儚む薫に結婚の気はない。二条院で中君と仲良く話す薫を匂宮は警戒する。

和歌 + 現代語訳

中君→阿闍梨:この春はたれにか見せんなき人のかたみに摘める峰のさわらび

今年の春は誰に見せようか、亡き人の形見として摘んだ峰の早蕨を

補足

※阿闍梨:あじゃり(先生)
※土筆:つくし
※早蕨:さわらび(芽を出したばかりのわらび)

第49帖 宿木(やどりぎ)薫25歳春-26歳夏

源氏物語_第49帖_宿木 やどりぎ
※帝と薫が碁を打つ。薫が勝ち越し、帝から褒美(女二宮との結婚)が与えられる(帝の圧)。

あらすじ

薫は大君が忘れられないが今上帝の頼みで女二宮との結婚を承諾する。匂宮は夕霧の六の君との結婚は気が進まなかったが結婚後は美人の六の君の所へ通い中君は悲しむ。薫はまだ大君を想い中君にも近づく。薫と親密にする中君に匂宮は嫉妬する。薫は宇治で偶然亡き大君に似ている浮舟を見て喜ぶ。

和歌 + 現代語訳

薫(宇治の山荘で):やどり木と思ひ出でずば木のもとの旅寝もいかに寂しからまし

宿木(の昔泊まった家)と思い出さなかったら木の下の旅寝もどんなに寂しかったことでしょう

補足

※宿木:やどりき。他の木に寄生する木。

第50帖 東屋(あずまや)薫26歳秋

源氏物語_第50帖_東屋 あずまや

あらすじ

浮舟は婚約の問題で辛いことがあり、将来を心配した母は浮舟を中君に預ける。中君は髪を梳いてもらいながら、絵巻物を読む浮舟を見て、亡き大君を思い出し涙ぐむ。匂宮に狙われた浮舟が心配になった母は浮舟を東屋に隠す。薫は弁の仲介で東屋を訪ね、浮舟を宇治に連れて行く。

和歌 + 現代語訳

薫:さしとむるむぐらやしげき東屋のあまりほどふる雨そそぎかな

戸を閉ざすほど葎(むぐら)が茂っている東屋で、あまりに長い間、雨に濡れて待たされている

補足

※浮舟:八の宮と他の女房の娘(大君、中君の異母妹)
※東屋:浮舟の隠れ家

第51帖 浮舟(うきふね)薫27歳春

源氏物語_第51帖_浮舟 うきふね

あらすじ

匂宮は浮舟が忘れられず居場所を突き止めると、宇治の東屋を訪れ強引に一泊。その後、匂宮は薫の和歌を聞いて焦り、浮舟を宇治川対岸の隠れ家に連れ出す。やがて薫と匂宮の使者が鉢合わせてこの秘密がバレると、薫は浮舟を手紙で責める。浮舟は薫と匂宮との板挟みに悩み死を決意、最後に和歌を残す。

和歌 + 現代語訳

浮舟:橘の小嶋は色も変はらじをこの浮舟ぞ行くへ知られぬ

橘の(茂る)小島の色(のようにあなたの心)は変わらないかもしれないけれど、この浮舟(のような私の身)の行方はわからない

補足

第52帖 蜻蛉(かげろう)薫27歳

源氏物語_第52帖_蜻蛉 かげろう

あらすじ

浮舟がお隠れになり宇治の女房達は泣き叫ぶ。薫は浮舟を宇治に置き放していたことを悔やみ悲嘆に暮れる。匂宮は涙を枯らし悲しみを仮病で誤魔化す。しかしやがて匂宮も薫も他の女性達が気になり始める。とはいえ薫は大君、中君、浮舟が忘れられず、夕暮れの蜻蛉とんぼに宇治の姫君達を想う。

和歌 + 現代語訳

薫(独り言):ありと見て手にはとられず見ればまた行くへもしらず消えしかげろふ

そこにあるように見えるが手に取ることができない、見てもまた行方も知れず消えてしまう蜻蛉のようだ

第53帖 手習(てならい)薫27歳-28歳夏

源氏物語_第53帖_手習 てならい

あらすじ

浮舟は入水自◯に失敗し物怪に取り憑かれていたところを僧都に救われ、妹尼に看病される。浮舟は意識を取り戻すも記憶喪失を演じ、出家を望み、手習いに和歌を書く。言い寄る男もいたが拒絶し出家、ようやく心に安静を得る。やがて薫にも浮舟の生存が伝わり、薫は僧都を訪ねて行く。

和歌 + 現代語訳

浮舟:身を投げし涙の川の早き瀬にしがらみかけてたれかとどめし

身を投げた涙の川(宇治川)の早瀬にしがらみを架けて誰が(私が死ぬのを)止めたのか

補足

※手習:てならい。文字を書く練習。習字。
※早瀬:川の水の流れの早いところ。
柵:しがらみ。水流をせき止めるため、くいを打ち並べ、それに木の枝や竹を横たえたもの。
※物怪:もののけ

第54帖 夢浮橋(ゆめのうきはし)薫28歳

源氏物語_第54帖_夢浮橋 ゆめのうきはし

あらすじ

薫は比叡山の僧都を訪ね、出家した女は浮舟と知り涙ぐむ。その姿を見て僧都は浮舟を出家させたことを後悔する。薫は浮舟の異母弟に手紙を持たせ使者として送るが浮舟の心は固く返信しない。薫は失望し、昔の自分がしていたように、誰かが浮舟を恋人として隠しているのではと余計なことを考える。

和歌 + 現代語訳

薫→浮舟:法の師を訪ぬる道をしるべにて思はぬ山にふみまどふかな

(僧都を)仏法の師と(仰いで)訪ねてきた道を道標にしていましたが、思わぬ山道(恋)に迷い込んでしまった

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